第二十三話
「和歌さん、おはようございます」
「ウィルソンさん」
彼女は今日も黒い着物を着こんでいる。
一見喪服にしか見えないだろうが、俺には彼女の明るい瞳が差し色となってそこはかとなく上品だと思えた。
日差しが降り注ぐベンチは、温められた鉄板のようにじんわりと熱い。
随分待たせた挙句、彼女に汗をかかせてしまったかもしれない。
俺としたことが、待ち合わせ場所としては最悪の所を選んでしまった。
遅れたことによる罪悪感もあいまって、少し緊張してしまう。
「すみません……。お待たせしてしまいましたね」
「いえ、私も今来たばかりですから」
彼女の火照った頬に一筋の汗が流れているのを見て、俺は申し訳なさそうに目尻を下げた。
「ここは日陰がなくて暑かったでしょう。……近くにカフェがありますから、そこで少し涼みましょう」
立ち上がった彼女の背中にそっと手を添える。
エスコートには馴れていないのか、彼女はぎこちない笑顔で礼を言った。
彼女も緊張している。
先日のお詫びとはいえ、見ず知らずの男とこうしてどこかの店へ行こうというのだから、そういう心理状態になるのは当然か。
しかし彼女にはリラックスしていて欲しい。
歩きながら、俺は柔らかに話しかけてみた。