第二十二話
携帯の時計は10:45と表示されている。
すっと噴水広場に視線を戻すと、なんと既に彼女が来ているではないか!
はじかれたように席を立ち、支度を整える。
「すみません。取材相手が来たようなので、これで失礼します」
コーヒーを飲み終えた紙コップを隣の回収ボックスへ捨てて立ち去ろうとすると、渡辺アミが袖をぐいと引っ張った。
強い力で引き留められ、さすがに苛立ちを隠せない。
俺の表情が曇ったのを見ても、こいつの口元は弧を描いたままだ。
「……どういうつもりですか」
少し低めの声にもこの女は動じない。
先ほどまでニコニコしていた表情をすっと真顔に戻すと、俺のジャケットに何かを入れてきた。
「これ……私の番号です。今度絶対電話してくださいね」
耳元まで寄せられた唇から発せられる吐息が、更に眉間の皺を深くする。
流石にまずいと思ったのか、ぱっと手を離して「うふふ」と笑った。
「お仕事中失礼しましたっ。ウィルソンさん」
やっと解放された俺は、渡辺アミが後ろから手を振っているのに目もくれず、小走りで噴水広場まで駆けて行った。