第十九話
そんなことを考えていると、店のドアベルがカランと鳴った。
客か。
このカフェは今日も随分賑わうな、と——。
その客の着ている真っ赤なドレスが薄っすらとした向かいのガラスに映っている。
振り向かないでガラス越しに顔を確認してみるが、肝心な所が店内の照明で透き通って見えない。
(こんなカフェに真っ赤なドレスとは、余程の自意識の高い人間か?)
さっきから店内が妙にざわついている。
なんだ、そんなに可笑しな奴か?
それとも余程の美女か?
いや、芸能人か?
ガラスの女はカウンターでコーヒーを受け取ると、長い髪を揺らしながらこちらの方へ向かってくる。
ぼんやりとした顔の輪郭が鮮明になるにつれ、俺の期待感が高まっていく。
しかしサングラスを外した瞬間、俺が最も危惧していた人物であることが明らかになり、おいおい冗談だろと内心舌打ちした。
「ルークさん、久しぶりじゃないですか。」
昨日テレビで見た人気の芸能人、渡辺アミが図々しく隣の席に腰かけてきた。
彼女は、俺が日の丸テレビ時代にプロデュースした番組で登用していた人気モデルで、たまに飲みに行くこともあった。
いわゆる大人の関係だったこともあるが、解雇されてからは一切連絡をとっていなかった。