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ハードゥスの海と造船技術

 ハードゥスの海は結構荒れる。といっても、そんな場所は陸から大分離れた場所がほとんどで、陸に近い場所は比較的穏やかな場所が多く、栄養も豊富なので漁にも向いていた。
 そんな海だからこそ、近海での漁はそれなりに行われているというのに、遠海に出ようとする者はあまり多くはない。その結果、大型の船の数が少なく、造船技術の発展は他の分野よりも弱かった。
 いつか大陸間を股にかける者も出てくるのだろうが、現在の様子ではまだまだ先のよう。造船の技術を持った者が何人か流れ着けばいいが、今までも居なかったわけではないので、流れ着いてもそれだけで発展するとは限らない。
 それでも無いよりはマシなので、技術持ちが流れ着いたら海沿いの町や国に配置するようにしている。
「………………さて、いつになったら大陸を移動できるようになるのでしょうか」
 現在は、海での遭難者が別の大陸に流れ着くというような実例すら皆無。そういったことも想定して、れいは海流のコースも決めているというのに。まぁ仮に遭難しても、流れ着く前に海の魔物の餌になっているのだろうが。
「………………材料は在るのですがね。それとも、地下迷宮で船でも出すとか?」
 地下迷宮は環境を階層毎に変えることが出来る。流石に船を魔物が落とすとか、宝箱から見つかるとかは無理なので、階層を改造して沈没船とか漂流船をモチーフにして、そこを探索するというモノを用意してもいいだろう。魔物のドロップなどに拘るのであれば、船の模型や設計図を用意してもいい。
 それはそれで楽しそうだ。れいはそんなことを考えると、ついでに地域差を出してもいいかもしれないと考える。まぁ、海近くなら海関連、山近くなら山関連のモノが出やすくなるとかその程度だが。流石に大陸毎に出やすいモノ、出にくいモノなんて設定しても現時点では無意味であるし、場所によって通常のドロップ品の出現率を偏らせると、人の行動範囲はまだ狭いので、同じ大陸内でも挑む側は苦労しそうだ。
 とりあえずそれは、一つの案程度なので今は横に措く。
「………………各大陸の発展度合いは大分偏っていますが、これはしょうがないですね」
 そもそも大陸毎に歴史の長さが違う。配置する人選や環境などを加味するにしても、やはり時の長さというのは大きな要素になる。この辺りは交流が始まらなければ、いつまでも差が出たままだろう。それはそれで楽しめるのだが。
 娯楽の視点で考えると、このまま独自に発展させていくのも悪くはないので中々に悩ましい。それに手を貸し過ぎるというのもいいことではない。人は直ぐに堕落する生き物なのだから。
「………………そういえば昔、そんな管理者が居ましたね」
 自らが創造した者達にひたすらに甘かったその管理者は、世界のあらゆる要望を叶えてしまった。最初は食事に困らないようにだとか、住む場所が欲しいだとかそういった細やかながらも誰でも願いそうなモノばかりであったが、次第にそれに慣れると、次の欲が生まれてくる。それが叶うとさらに次。欲望に際限が無くなり、果てに全ての生き物は働かなくなった。
 それでも管理者は願いを叶える。最早創造者が被造物の奴隷と成り下がっていた。
 そして遂に、最初に世界に定められていた容量を使い切る。それでも無理矢理願いを叶えようとしたその管理者は、世界と共に散っていったのだった。これは今でも管理者達の間で語られる笑い話。その管理者は欠陥品として今でも嘲笑の的である。
「………………あれは確かに愚かではありましたが、その責を全て一人に帰結させるのはおかしいのですがね」
 それを指導した管理者もだし、そもそも創造主も悪い。当時から既に知られていたことなので、それを黙って見ていた者達もだろう。
 もっとも、当時れいはあまりの醜態に見かねて一度だけその管理者に忠告したことがあったのだが、結局それは聞き入れられなかった。無理矢理なら止めることは出来たのだろうが、流石にそこまでする義理は無い。
「………………過ぎたことはいいとして、どうしましょう?」
 つまらないことを思い出したと、れいは頭を切り替える。
 とりあえず船関連は設計図ぐらいは供給してもいいのではないか、とは思うも、どの程度の設計図にするかという問題もある。近くの大陸間を航行するというだけでも、それなりに発達した技術が必要になってくる。教えるだけならば簡単だが、現状ではそのレベルの再現は難しい。
 であれば、その何段階か前の設計図で、なおかつ次に繋がる技術の種が盛り込まれたモノがいいだろう。それが芽吹けば、次の設計図を用意するか発展を待てばいい。それだけで大陸間の交流が始まる時間はグッと縮まる。
 後は各大陸全てに同じ物を用意して、海の近場で攻略が進められている地下迷宮の浅い部分に設置してもらうだけ。それとも直接配った方がいいだろうか? そうすれば、神の威光とやらが増すかもしれない。配達係はネメシスかエイビスだろうが。
 そういったことを諸々考えながら、れいは現在の技術レベルに見合った丁度良い船の設計図を用意するのだった。

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