85.忙しいハッピーエンド
「ちひろは感じやすい身体をしているから、思う存分乱れていいぞ?」
実のところ逢坂は、おじさま呼びに抵抗があったのか。
(すみずみまで……念入りに……どうしよう、ついおじさまって呼んじゃったら……)
それでも彼に心も身体もたっぷりと愛されると思うだけで、身体の奥底がキュンと疼く。
果たして――
無意識とはいえ、ちひろは何度も逢坂のことを「おじさま」と呼んでしまい、執拗な愛撫を受けることになる。
だか彼の与えてくる行為すべてが、ちひろにとってたとえようの悦びであったため、意識を失うまでとことん愛されたのであった――
§§§
翌日から、ちひろと逢坂はラブいちゃで楽しい日々を送りました――
これにてハッピーエンドです……といいたいところだが、なぜかちひろはこれまでどおり、逢坂から熱血指導を受けていた。
数日もすると、逢坂は再び無精ヒゲを蓄え、サングラスをかけてしまった。
どうやら、あのエレガントなハイグレードイケオジは、何か特別な時にだけ登場するスタイルらしい。
と言っても、崩しすぎない洒落っけ気満載のハイスペックちょい悪オヤジを日々見られるので、それはそれで嬉しいのだが。
「次の新商品の開発会議を来週行う。最低でも二十案、考えておくように」
「は、はいっ! え? 二十も?」
「来月、上海の工場へ視察に行く。資料を用意しておいてくれ」
「上海……? って中国の? は、はい! わかりました!」
ちひろを公私共々パートナーにと考えている逢坂は、ビシビシにしごいてこきつかってくる。
逢坂のペースについていくのは至難の業だ。
それでも、ちひろは彼についていくと決意した。
「大変ねえ、中杢さん。辛いならさっさとギブしたほうがいいんじゃない?」
高木の嫌味がときどき飛んでくるが、ちひろは引きつった笑顔でいつも返している。
「いいえ。大変だけど辛いなんてことはありません。逆に楽しいです」
すると高木が鼻白む顔をするが、ちひろは一切気にしなかった。
確かに、はたから見ていたら、厳しすぎる教育のように思えるが――
ちひろは、仕事ができて格好良くて、最高の経営者であり恋人である逢坂にメロメロだから、実際のところかなり幸せいっぱいである。
―― end