第63話 鬱必至な闇堕ちエンドフラグが立ってしまいました!
絶望で顔から血の気が引きそうになっていると、モブ盗賊のひとりがローゼマリアの羽織っていたショールを掴み、勢いよく取り上げた。
「きゃっ……!」
あられもないドレス姿をモブ盗賊の目にさらすことになり、慌てて両手をクロスし身を屈める。
モブ盗賊が、口を歪ませてヒュウと口笛を鳴らす。
「こんなエッチな服を着てるんじゃ、犯してくださいって言ってるもんだよなあ?」
「そうっすよ。兄貴。早くヤっちまいましょう! おれ、ガマンできないっす!」
ニヒヒ……といらやしい笑みを浮かべ、モブ盗賊が手を伸ばしてローゼマリアの胸当ての生地を掴んだ。
ビリビリビリ……と衣の裂く音が響いて、ローゼマリアは再び金切り声を上げる。
「きゃぁあああっ……!」
それでもバザールで働くひとは、誰ひとり振り向いてくれなかった。
シャラシャラと鳴る飾りも砂の上にいくつも落ち、ローゼマリアの豊満な胸が見えそうになる。
細い右腕を汚い手に取られてしまい、反対の腕で胸を隠そうとするが、その腕も掴まれそうになった。
「いやっ……いやぁっ……!」
「騒げ、喚け! ガハハハ……!」
モブ盗賊ふたりがかりで華奢な身体をもみくちゃにされてしまう。
それでも一生懸命に抵抗した。抗えないとわかっていても――
「いやっ……離して、いやぁっ……! 助けて、助けてっ!」
必死に助けを呼ぶローゼマリアを、モブ盗賊たちはゲラゲラとせせら笑った。
「どうします? 兄貴。殺せと命じられたけど、こんな上玉もったいないですよねえ?」
「そうだな。おれたちの隠れ家に連れてってこっそり飼うか。代わる代わる犯してやろうぜ」
「いいっすねえ。鉄格子つきの監禁部屋を作りましょうや。ぐへへへへ……」
(鉄格子つきの監禁部屋……って……)
ローゼマリアは、またしてもバッドエンドのフラグが立っていることに慄然とした。
(運命が追いかけてくる。「救国の聖乙女と十人のフォーチュンナイト」の悪役令嬢ローゼマリアとしても運命がわたくしを捕まえようとする! 逃れられないの? ミストリア王国を脱出しても……この、鬱必須な腹ボテ闇堕ちエンドだけは?!)
絶望の闇に飲み込まれそうになった瞬間――
心と脳裏に、極彩色に煌めく男性の姿が浮かび上がった。
ローゼマリアの持つ悪役令嬢補正から――
決めつけられた乙女ゲームの運命から――
助け出してくれたひとがいる。運命を変えてくれたひとがいる。
威風堂々として、シニカルで。剣の腕が確かで、馬だってラクダだって操れて。
でも大口開けてクレープを頬張るような、少年らしさも持ち合わせている。
黒い髪、ダークブラウンの目をした美形の偉丈夫の名は――
「……ファルさま……っ……」
「はぁ? なんだ?」
モブ盗賊が、掠れた声で叫ぶローゼマリアを、妙なものでも見るような顔をする。
構わず渾身の力を込めて、彼の名を呼んだ。
「ジャファルさまっ……!」
「なんだぁ? 助けを呼んでるのか? 無駄だと……」
「ジャファルさま! 助けて、助けてくださいませ! わたくしはここですっ!」