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第62話 ゲスいモブ盗賊に襲われかけています!

 目の前に風体の悪い男ふたりが立ちはだかり、ローゼマリアの行く手を遮った。

 筋肉と脂肪に覆われた巨躯に、全身傷だらけ。上半身は斜めがけした革ベルトに下はボロボロに破れたシャルワール。
 腰には太めのベルトを締め、ホルダーには剣を差し込んでいた。
 頭には日よけのターバンを巻き、ひと目で砂漠の盗賊とわかるテンプレの外見をしている。

(ゲームでは見たことのないキャラだけど……モブ盗賊ということ?)

 ミストリア王国を出国したというのに、またしてもこんな連中に遭遇するなんて。

 ローゼマリアには、大きな疑問があった。
 メインストーリーやイベントは、すべてミストリア王国内で起こるはずだ。
 バザールしかり、目の前のならず者しかり。
 あまりに他国の設定やイベント要素が作り込まれているのはなぜだろうか。

(ジャファルさまだってそうよ。最初からモブではないと推測していたけど、あそこまでキャラができあがっているなんて、もうメインの攻略キャラ以上だわ)

 ローゼマリアは確信した。
 乙女ゲーム「救国の聖乙女と十人のフォーチュンナイト」には、続きがある。
 続編か、番外編か。それともダウンロードコンテンツか。

(もしかして……わたくしは遊べなかったけど……)

「おいおい。怖くて口もきけないのか? おねえちゃんよ」

「兄貴ぃ。殺す前に、おれたちで味見しましょうよぉ」

「もちろんだ。おれが先にヤらせてもらうぜ」

「ぐひひひ……どうぞ、ぞうぞ。兄貴のあとに楽しませていただきやす」

(またしてもゲスいっ! ……このゲームのR18バージョンは、どうしてこんなにもゲスい悪役モブしか出てこないの?!)

 それにしてもバザールは目と鼻の先。大声を出せば、必ず誰かが見とがめてくれるはず。

「誰か! お願いです、誰か助けてください!」

 しかしバザールにはあんなにもひとがいるのに、誰ひとりローゼマリアの声に反応しなかった。
 再び声高に叫んでみる。

「お願いです! 誰か……!」

 モブ盗賊はニヤニヤとしたまま、ローゼマリアとの距離を詰めてくる。
 なぜこんなにも叫んでいるのに、無視されてしまうのだろうか。

(どうして? おかしいわ。なぜ誰もこっちを見てくれないの?)

 狼狽えるローゼマリアを、モブ盗賊たちがあざ笑う。

「残念だなあ。おねえちゃん。ここらへんで働く連中は、自分の割り振られた業務しか興味がないんだぜ」

「そうそう。毎日同じ言動を繰り返してんだ。よく飽きねえよなぁ」

(自分の割り振られた業務……つまりNPC……ノンプレイヤーキャラクターということね。ということは、どれだけ助けを求めても無視されるということ……?)

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