第61話 両親を見つけたと思ったのに…蜃気楼?
そのままふたりで、バザールの見学をしていたとき――
ローゼマリアは人混みの中に、父と母にそっくりなひとを見つけてしまった。
(え? お父さま? お母さま? どうしてこんなところに……!)
ミストリア王国では見ない、珍しいオリエンタル柄のマントを羽織っているが、父母に間違いはない。
「お父さま! お母さま!」
繋いでいたジャファル指を離すと、ローゼマリアは人混みに向かって走り出した。
「ローゼマリア?! どこに行く!」
目にしたひとたちがほんとうに両親なのか確かめたいあまり、ジャファルの焦った声を置いて、一生懸命追いかける。
しかし、バザールを楽しむひとが多すぎて、思うように進めない。
「すみません! あ……失礼します、とおして、とおしてください!」
肩が見知らぬ男性にぶつかってしまい、大きな声で怒られてしまった。
あわや子どもに当たってしまいそうになり、避けようとして転げそうになってしまう。
そんなこんなで、両親に似たひとがいた場所にたどり着いたが、もうどこにもその姿はなかった。
「はぁ……はぁ……ふっ……はぁ……」
深窓の令嬢として育ってきたせいか、思い切り走ったことないローゼマリアだ。
息があがり、心臓も苦しくなり、その場にへたり込みそうになってしまう。
額から汗は噴き出るし、足はガクガクするし、両親と思わしきひとの姿は見えなくなってしまうし、どうしていいのかわからなくなる。
「お父さま……お母さま……どこなの……?」
するとバザールから遠く離れた場所に、キャラバンの一行が移動していた。
そこに、先ほど見かけたオリエンタル柄のマントを被った人物が混じっている。
「お……お父さま! お母さま! 待って、待ってくださいっ……」
ローゼマリアは、叫びながらキャラバンのほうに向かって駆け出す。
「あぁっ?!」
ローゼマリアはズ地面に倒れ込んで、ザァッと砂を巻き上げてしまう。
「う……っ……ごほっ……」
細かい砂が目や鼻に入り込んで、ゲホゲホと咽せてしまう。
「ごほ……ふっ……」
気がついたときには、地面から立ち上る蒸気で目の前がゆらゆらと揺れていた。
「え……?」
キャラバンが、突然姿を消していることに気がつく。
「な、なぜ?」
慌てて左右を見回したら、右のほうにキャラバン隊が見えた。
なぜかはわからないが、それはあまりに遠い距離に見えた。
(……走れば間に合いそうな距離だったのに……それに方向も違うわ……どうして?)
「もしかして、これが蜃気楼というもの……?」
とんどんキャラバン隊の姿が小さくなっていく。
砂がやけに熱く感じた。地面に倒れ込んだままでいると、全身の皮膚がやけどをしそうなほど熱い。
よろよろと立ち上がり、全方位をキョロキョロと見回す。
ローゼマリアは、自分がどこにいるのかわからなくなってしまった。
「ジャファルさまは、どこかしら?」
バザールを抜けてしまったようで、白いテントの集団はかなり後方にある。
(どうしよう……はぐれてしまったみたい。探さないと……)
ジャファルが心配しているに違いない。バザールの方向へと歩いて行こうとした、そのとき――
「おい、こんなところに特上の美人がいるぞ」
「本当っすねえ。掘り出しものだ」