69.頭を使う残業です!
つまり売上高から、売上原価とそれにかかる経費を差し引いた利益を上げるという意味である。
どうやれば利益が上がるのか、ちひろには仕組みがわからない。
しかし、これを思案しなければ、先に進めないような気がした。
「どうだ。やってみるか? 当然だが知識面はおれがサポートする」
逢坂が、ちひろにそう問うた。
(失敗のまま終わらせるなんてできないわ。もしチャンスがあるなら、もう一度チャレンジしたい……!)
ちひろは、しっかりと彼の顔を見ながら深く頷いた。
「はい。やります」
ちひろが決意を込めて明言すると、逢坂が嬉しそうに笑った。
§§§
利益を上げる方法とは――
知識も経験もないちひろは、ネットでそれらの方法を検索し、模索してみた。
夜の10時。
ほかの社員はみな退社している。
ちひろは自発的に居残りして、利益を上げるための知識を必死にネットから仕入れていた。
おやつのクッキーを口の中でモシャモシャと咀嚼し、コーヒーをゴクリと飲み干す。
この会社はコーヒー飲み放題、菓子類も食べ放題で置かれている。
頭を使うことに慣れていないちひろは、少しでも知恵を絞るとすぐにお腹がすいてしまう。
ちひろ以外の社員は、スタイルを気にしているのかそれほど菓子を食べないが、ちひろはほかのひとの分を横取りしない程度に、しっかり食べていた。
とくに、時々しか補充されない絶品クッキーがあると、テンションが上がる。
残業する日は必ずこれを食べて、糖分を補給していた。
「利益を上げるには、高利益の商品を取り扱う……これは無理ね。価格は決まってしまっているもの。今更値上げなんてできないわ。次は……付加価値を高めて利益を上げる」
ちひろの独り言だけが社内に響く。
どうせ誰もいないと思い、好き放題に呟いた。
「付加価値? 付加価値って何よ。あとで調べなきゃ。次、コストを削減する方法。コスト……って、かかる経費のことよね。これって削減できるものなの?」
「コスト削減なら可能だ」
「え?」
てっきりひとりきりだと思い、ぶつくさと好き放題しゃべっていたのに、突然背後から声が振ってきてビクリとする。
振り向くと、そこに鞄を持ってジャケットを肩にかけたちょい悪オヤジこと、逢坂が立っていた。
「お疲れ様です。外回りからお戻りになられたところですか?」
逢坂は夕方から外出だということで、社内にはいなかった。
こんなに遅くに戻ってくるとは驚きだ。
彼は、ちひろの横の席に鞄とジャケットを置いて、そのまま隣の椅子に座った。