第58話 スイーツは、甘くなければスイーツじゃない!(真理)
「ジャファルさま。わたくし、あのお菓子が……」
と指さしたところで、はっと気がつく。
(この国の通貨を持っていないわ。それどころかルーギルだってない……)
戸惑うローゼマリアにジャファルが優しく微笑む。
「混んでいるな。並ぶか」
「ええと。でも……」
金を持っていないと返そうとしたら、彼が楽しそうな顔をしていることに気がついた。
「懐かしいな。私も一緒に食いたいな」
「え? 一緒に?」
ジャファルがスイーツを食べる姿が連想できない。
しかし鉄板で次々に焼けているスイーツを目にして、彼がローゼマリアと同じように嬉しそうな顔をした。
(やだ……なんだか目がキラキラとしている。少年みたいね)
いつもはクールで尊大で、傲岸不遜な彼が、スイーツの屋台でウキウキしている姿に、親近感を持ってしまう。
数分もすると順番がきたので、ジャファルが注文する。
「私はバターと砂糖だけのものを貰おう。ローゼマリアはどうする?」
「わたくしは……そうですわね。フルーツをたっぷり、生クリームとカスタードクリームを多めに入れ、チョコレートシロップもかけてくださいませ。あとアーモンドやクルミの刻んだものを振りかけていただきたいですわ」
ローゼマリアのオーダーを聞いたジャファルが、胸やけしたような顔をする。
「甘そうだ」
「スイーツは甘くないとスイーツとは言いませんわ」
ふたりのやり取りに、店のおかみが微笑ましいという表情をした。
「きれいなお嬢さん。そんなに食べても、スタイル抜群で羨ましいねえ。はい」
「ありがとうございます。美味しそう!」
焼きたてのスイーツがふたつ手渡され、ジャファルとふたり並んで歩いて行く。
「ごちそうしていただき誠にありがとうございます。とても嬉しいですわ」
「なにを言っている。妻の求めるのを用意するのは夫の務めだ。それがたとえ屋台のクレープだとしても同じこと」
妻と言われ、ローゼマリアの頬が赤らんでしまう。
(そうね。わたくしはジャファルさまの奥さんなのだわ。まだ、慣れないけど……)
「では……いただきます。……おいしい」
小さくそう呟くと、ジャファルが嬉しそうな顔をした。
そのあでやかな表情に、ローゼマリアは面はゆい気持ちになってしまう。
それにしても、この世界でのクレープに似たお菓子の名のが、そのままクレープだとは思わなかった。
(今まで深く考えたことがなかったけど、そういうものなのかしら?)