第59話 鉱山でも油田でもって…どこまで本気?
歩きながら、いろいろな店を眺め見る。
ミストリア王国とアルファーシ王国の国境ということで、雑貨にしても衣類にしても、オリエンタルさとモダンさが入り交じった商品が多かった。
(なんと言えばいいのかしら。シノワズリ? ……それって、この世界に、ある言葉なのかしら?)
「とても変わったデザインのものが多いですわ。アルファーシ王国特有かしら」
「そうだな。シノワズリというものらしい。私もそう詳しくはないのだが」
(ここは乙女ゲームの世界。用語や感覚は、制作サイドに依存されるのね。固有の名称が前世と一緒というのはありがたいわ)
「ほかにも気に入ったものがあれば買おう。どうだ? 欲しいものはあるか?」
「いいのですか? わたくし……」
モザイクガラスの吊るしランプ、金属製のコーヒーカップやコーヒーポット、花を混ぜ込んだオリーブ石けん、細やかな刺繍の絨毯。
どれも初めて目にするものばかりで、目移りしてしまう。
「欲しいものと思えるものがたくさんありすぎて、すぐに決められません」
そう返すと、ジャファルは不敵に笑い、はっきりとこ口にした。
「あなたの欲しいものは、鉱山でも油田でもなんでも買おうではないか」
「はい……?」
冗談にしても大げさなことを言ってくるので、ローゼマリアは反応に困ってしまう。
(いくらジャファルさま自身がたいそうなお金持ちでも、鉱山や油田は言い過ぎじゃないかしら。……でも100億ルーギルを用意できるくらいだし、もしかして本気なのかも?)
「そういえば……ジャファルさま。あのオークションで99億ギーブルをあとで払うとおっしゃっていましたが、まさかほんとうに……?」
「当然だ。しかし遣いのものが99億ルーギルの入ったアタッシュケースを馬車に詰め込んで持っていったが、すでにオークション会場となった大劇場には、ひとっこひとりいなかったそうだ」
「そうなのですか?」
「報告によると、司会の妙な男が、舞台の上に四つん這いでじっといているだけだったと」
「妙な……男とは、アンノウン?」
「名は知らん。なにを訊いても無言で、領収書をもらうこともできなさそうだから、あきらめて99億ギーブルを持ち帰って銀行に戻した。面倒なことだな」
「はあ……」
アンノウンの奇行に興味はないが、ジャファルが常軌を逸した財力の持ち主であることは理解した。
(わたくしは、とんでもないひとの妻になったのかもしれない……)
これまでのこと、そしてこれからのことを考えるローゼマリアの顔を、端整な美貌が覗き込んでくる。
「ジャファルさま?」
彼の無骨で節くれ立った指が、そっとローゼマリアの頬を撫でる。
キスされるのではないかと、ドキンと胸が高鳴ってしまう。