バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

67.失敗…? それとも…?

 まもなく始業開始の時刻になる。


 ちひろと逢坂はECチームにいた。
 あと数分で、ちひろの企画したサニタリーショーツの販売開始である。

 逢坂が、まずはネット販売に限定して発売しようと取り決めた。
 ちひろは、問い合わせや購入の電話がかかってきたら、すぐに出られるよう準備万端で待機している。

「さあ、10時よ。広告もかけたしメルマガも打った。スタートダッシュでどれだけバズるか楽しみね」

 橘の一言で、全員がパソコンのモニターを注視する。
 すると、注文の入ってきたときに鳴る電子音が、数分置きに流れてきた。

 しかし電話は、まったくかかってこなかった。

(半期に一度のセールのときは、ひっきりなしに電話が鳴っていたのに……もしかして売れていないの? そんな……)

 その場にいる全員が無言のまま、緊張のときが流れていく。
 30分ほど経過した頃、逢坂が橘に声をかけた。

「途中で悪いが、現時点で何枚売れた?」

 橘がカタカタとキーボードを打ち、言いにくそうに小声で呟く。

「うーん……52枚ですね」

 身体中の血液がサーッと引いてしまいそうなほど、ちひろの眼前が真っ青になる。

(52枚……え? それ、少なくない? もしかして失敗……?)

 場が暗くなってしまったので、ちひろの胃がギュッと痛くなる。

「そんなものだろう。新作だからな」

逢坂がこともなげにそう言うので、ちひろはかすかな期待を込めるしかない。

「この調子で……30分で50枚ずつ売れていくものなのでしょうか?」

 逢坂の答えは、まったくちひろの期待したものではなかった。

「いいや。発売開始から一時間までが勝負だな。あとは徐々に売れる枚数が減っていく」

「えっ……」

 そのペースならば、ちひろが企画生産した7,000枚のサニタリーショーツが完売するのは、いつになるというのだろうか。

「じゃあ……失敗……?」

 フラフラと身体が前後に揺れ、倒れ込みそうになるちひろの背を、彼の手が支えてくれた。

「まだ諦めるのは早い。口コミがある」

「口コミ……?」

「そうだ。レビューやブログ紹介といったインフルエンサーの口コミ。これが2回目の売り上げの山になる。失敗だと決めつけるのは早い」

 ちひろのはこのとき半信半疑だった。
 逢坂が落ち込むちひろを慰めようとして、優しい言葉をくれたのだと思った。

(あんなに頑張ったのに売れないなんて……協力してくれた逢坂社長や有吉さんに合わせる顔がない……)

 顔があろうがなかろうが、結局毎日顔を合わせることになるわけだから、地の底まで気持ちが落ち込んでしまいそうになる。
 だが、事態はそう悪く進まなかった。

 2週間後には、逢坂の言葉が正しいと判明するのである――


 §§§

しおり