59.なかなか企画が通りませんっ!
しかしヒップ丸見えのショーツを、日常から穿くだろうか?
「うーん。普段用と勝負用は兼用しにくいよね。……あの日のほうが月に一回きちゃって、タイミング読めないときがあるし……」
何かが脳裏に引っかかり、再度ヒット商品の掲載されたファイルのページをめくる。
「実用的路線のヒット商品は多いけど、あの日用のショーツってないのね。……なぜだろう。最も機能性を必要とするショーツだと思うんだけど。……もし、可愛いあの日用の下着があれば買うかな?」
ちひろなら買う……かもしれない。
ブルーディという言いかたがあるように、気持ちが落ち込みそうなときには、気分が上がるような可愛いショーツがいい。
「あの日用だけど勝負用並みに可愛い。そんなブルーディ用サニタリーショーツなんてどうかな」
ちひろは、人気インナーブランドに似たような商品がないかを調査し、顧客層の分析も行った。
すでに市場には、似たタイプの人気商品もあった。どうやらこの会社が手がけていないだけのようだ。
「うん。やってみよう。自分が使いたいと思える商品を企画したい」
決断したちひろは、一晩中新商品について考案した。
だが翌朝。
徹夜で仕上げた企画書は、一秒で逢坂に却下された。
「ストーリー性がない。誰が、いつ、どんな目的で、この商品を買おうとしているのか流れが見えない。想像しろ。購買客の心の動きを」
「はい……」
ちひろは、その日終電まで企画書を練り直した。
翌朝一番に逢坂に見せたら、今度は五秒で突き返された。
「世の中に流通している商品と、君が提案する商品との間に明確な差別がない。まずは君が理想とする商品のよさを、夢を持って語れ。顧客の心を揺さぶるんだ」
どれだけ修正しても、次から次に逢坂が指摘する。
それは的を射た意見ばかりだが、初めて企画書を作成するちひろには、何をどう直していいのかわからなかった。
取りあえず指摘された内容を修正するため、フラフラとデスクに戻る。
「今夜も徹夜になりそう……」
(めげるな、私! まだ企画書段階よ。諦めるのは、まだ早い……!)
そう心を強く持ち、逢坂に指摘された内容を自分なりに吟味する。
「私が理想とするサニタリーショーツを、夢を持って語る……」
つまり、自分の企画した商品を心から愛するということだ。
ちひろは、この商品をどんなときに、どんな風に使ってほしいかと箇条書きにした。
気がつくと、社内に誰もいなくなっていた。
壁にかけられた時計を見ると短針は九の字を指している。