52.イケメンの営業さんに庇われているようです
そのうち様々な提案を求められたり、ちひろ目線での改善案を提出したりするよう要請され始めた。
インナー業界に疎いちひろに、画期的なアイディアや提案、改善案など出るわけがない。
しかし逢坂は必ずそれらを求めた。
だから、ちひろも日々市場調査をし、足を使ってインナーブランドのアンテナショップを回るようにした。
怒られることも、厳しい指導を受けることもある。
ありえないようなミスをしてしまい、ちひろの経験値では手がつけられなくなったことも一度や二度じゃない。
その都度、逢坂が驚きの手腕で解決してくれた。
彼は驕るわけでも、ちひろに恩を着せるわけでもなく、淡々と解決方法を提示してくれる。
(とても頼りがいがあって、すごく人間の器が大きいひと……。こんなに素晴らしい社長の会社で働けてよかった。私、できるところまで頑張ってみよう!)
初めの頃に持っていた苦手意識や憂慮が、どんどん消えていく。
ちひろは逢坂に対し、言葉では言い尽くせないような尊敬の念が湧き上がってくるのを感じていた。
§§§
三ヶ月後――
会議室、チームリーダーを集めての月一ミーティング。
逢坂は集まった彼らに、ちひろを引き続き逢坂預かりにすることを説明した。
すると返ってきた答えがこれだ。
「逢坂社長が手をかける価値があるとは思えません」
「同感です。そもそもの能力値が低いんですよ」
逢坂の目から見て、ちひろはかなりましになったほうだと思う。
これまでの、たるんだ考えは捨て、自己啓発のために日々勉強に励んでいる。
その証拠に、最近は失敗も減っているし、自ら積極的に動くようにもなった。
だが彼女たちは、それでも標準以下の能力しなかいと決めつけている。
誰しも最初から仕事ができるわけではないが、もとから意識や心構えが高い彼女たちからしたら、やはりちひろは半人前以外の何者でもないのだろう。
そこに、まったく違う意見を呈するものがいた。
「ぼくは、なかなかいいんじゃないかと思うけどね」
前回は出張でいなかった人物、営業部のチームリーダー、
スタイルも顔もよく、自分を魅力的に見せるテクニックを知っている男。
今も洒落たイタリアンのスーツに身をかため、モデルみたいなポーズを取り、キザなポーズで微笑んでみせる。
茶色に染めたくせのある髪を気だるげにかき上げると、艶のある流し目でほかの女性陣を眺め見た。
クールなはずの高木でさえ頬を染めるから、有吉は天性のたらしというものだろう。
下着のバイヤーは女性率が高い。
だから営業職には、顔がよく物腰の優しい男のほうがいいと考え、逢坂は有吉を選んだ。
自分の審美眼は確かなものだと自負できるほど、彼の業績は華々しく、売り上げに多大な貢献をしてくれている。
そんな彼は、当然のごとく女性陣から人気が高い。
不用意にちひろを擁護などしたら、どうなることか。