51.自分のできることを考えます!
(ううっ……怖い……また何か言われそう。そ、そうだ! セクハラ発言の件。みんなが見ている前で、逢坂社長にちゃんと謝っておこう)
「逢坂社長っ……」
「なんだ? 質問事項か?」
「いえ、あの……先日は失礼な発言をして申し訳ありませんでした。軽率でした。すみません」
ちひろは深々と頭を下げた。
面を上げると、逢坂がじっとちひろを見つめてくる。
サングラス越しだが、彼が強い眼差しを向けていることだけはわかった。
「軽率は軽率だが、外部の人間に対して言わないでくれたらいい。相手によっては怒り心頭になる場合もあるからな。計画倒産した会社ではどうだったかは知らんが、早くこの会社に馴染んでくれよ」
「はい。本当に申し訳ありませんでした!」
再び頭を深く下げる。
目線を上げたときには、もう逢坂は自分のデスクに戻っていた。
ちひろも自分のデスクに戻り、椅子に腰掛ける。
すると、すぐさま高木のイヤミが飛んできた。
「あなた、計画倒産した会社にいたの。どおりで社員教育がなっていないと思ったわ。代表取締役が卑怯だと社員の質も低いのね」
確かに給与もボーナスも振り込んでくれず、逃げるようにして計画倒産をした社長は卑怯だと思うが、社員の質が悪いとかどうとか言われる筋合いはない。
「……確かに計画倒産しましたが、それと社員の質は関係ありません」
ほかのみんなは新しい会社で頑張っているし、自己啓発だって頑張っている。
何も知らない人間に卑下されたくはない。
ちひろが確固とした口調でそう返したせいか。
それとも、さすがに言い過ぎたと思ったのか、彼女はそれ以上何も言ってはこなかった。
ちひろも自分の業務に手をつけ始める。
(……とはいえ計画倒産って字面が悪いわよね。そこで働いていたとなったら、偏見持たれても仕方ないか。……あれ?)
なぜ高木は計画倒産したと知っていたのか。
……いや、先に口に出したのは逢坂だ。
(長谷川さんから聞いていたのかな? 私の口からは計画倒産とは言ってなかったと思うんだけど……)
本来なら色眼鏡で見られそうな経歴。
それでも雇ってくれた逢坂に、ちひろはいろいろと考えるところが出てくる。
(逢坂社長は、とても寛大なひとだわ。あのひとにだけは半人前扱いをされたくない。できれば戦力社員として認められたい……!)
そんな願いが、心の底からふつふつと沸き上がってくる。
ちひろは、いつでも自分ができることを考え、日々の業務を精一杯にこなしていった。