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第42話 熱情を込めたプロポーズ

 ローゼマリアは、ただ怯えた目でジャファルを見上げるしかない。

「……その、それしかわたくしを助ける手段がないのでしょうか?」

「手段などいくらでもある。だが、ことは俊敏に行いたい。偽名のあなたと結婚し、夫婦として国境を抜ける。目をくらませるには十分だ」

 ならば、とりあえずのところ形式上の結婚でいいのでは――
 そう返そうとしたら、ローゼマリアの心臓がどこかに飛んでいきそうなほど眩しい笑顔を、ジャファルが向けてきた。
 怯えていたはずのローゼマリアも、秀麗な美貌を持つ彼に思わず見入ってしまう。

「ローゼマリア。あなたは私の人生に咲いた艶やかな薔薇。いつまでも美しく咲き誇ってもうために精根を尽くすつもりだ」

「え……」

『黄金の気高き薔薇』と称されることはあったが、人生に咲いた艶やかな薔薇と褒め称えられたのは初めてだ。

(美しく咲き誇るために精根尽くすだなんて……わたくし、ジャファル様にそこまで思われるようなことをした記憶が、やはりないのだけど……)

 麗しい男神のごとく彫りの深い顔立ちをした彼が、射貫くほどの強い眼差しでもって、ローゼマリアを見つめてくる。
 あまりに神々しくて、彼の目に自分がどう映っているのかと考えただけで恥ずかしくなる。

「恥じらうあなたも美しいな。月の光を溶かしたように輝くような艶やかな金髪に、掘り出したばかりの雪花石膏(アラバスター)みたいな白い肌。サファイアみたいな瞳に、完璧な形をした鼻梁。サクランボウのような唇」

 これまでも、容姿を褒められることは多々あった。
 しかしジャファルの言葉には心を揺るがすような重みがあって、ローゼマリアとしてはどうしてしいいかわからなくなる。

 頬を染めて彼を見つめていると、ジャファルが気遣うようにローゼマリアの頬や頭を撫でながら、啄むようなキスを落とす。
 そして優しさを浮かべた瞳で、甘く囁く。

「私の運命のひと、ローゼマリア」

 ドクンと、胸の奥が響いたような気がした。

「あなたを私の妻にする。そして私の国へ連れて行く。そこならば、誰もあなたに危害を加えない」

 心だけは、ジャファルの言葉に浮かされているような心地になる。
 すべては、夢の中のできごとなのではないかと思えるほどだ。
 ローゼマリアは大きく息を吸い、気持ちを落ち着かせようとする。

「私のものになってくれ。ローゼマリア」

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