第43話 安堵の眠り
(ジャファル様の……声が……優しくて、力強くて……安心できる……)
しばらくすると、息が収まり規則的な呼吸に変わる。
(きっと……明日になれば、事態は変わる。そうよ……たとえ、わたくしが……悪役令嬢でも……)
運命は、必ずしもゲームどおりではない――
ジャファルがそばにいてくれたら、事態は変化していく。
そう信じて、ローゼマリアはひとときの眠りについた。
§§§
ローゼマリアが可愛らしい顔で寝てしまうと、ジャファルはゆっくりと腰を引き抜いた。
肉棒には彼女の愛蜜とジャファルの吐精、そして赤い血が混じっている。
「処女であるのは間違いない。だとしたらローゼマリアは感じやすい身体なのか。外見は高貴な公爵令嬢、一皮剥けば淫乱な身体とは……実に私の好みではないか」
彼女の頬をそっと撫でてから、起こさないよう静かにベッドから降りる。
シルクのガウンを羽織り、そのまま足音を立てぬよう寝室を出て、扉を閉めてから呼び鈴を鳴らす。
バーカウンターのワインセラーからヴィンテージもののワインを一本取り出したところで、ノック音がした。
「入れ」
「失礼いたします」
重厚な扉を開けて、ラムジが現われた。
浅黒い肌にストロベリーブロンド色をした髪の青年が一礼すると、紙の束を持って室内に入ってくる。
彼は、ジャファルの身の回りの世話から、仕事の補佐、そのほか口では言えないような汚れ仕事までやってくれる有能な秘書だ。
「頼まれていた資料をお持ちしました」
ラムジはローテーブルの前までくると、片膝をついた。手に持つ紙束を、そっとローテーブルの上に置く。
ジャファルはワインをバーカウンターに置くと、ソファに座り紙束をパラパラとめくる。
「……やはり、な。思ったとおりだ」
ローゼマリアは、次期王妃であるアリス殺害未遂の首謀者として、指名手配されていた。
当然、それを鵜呑みにしていないジャファルは、水面下で今回の事件を調べさせていたのだ。
どうやらローゼマリアを王妃にさせまいとするミストリア王国宰相一派が、アリスを担ぎ上げ、王太子に取り入らせたと推測する。
それでローゼマリアに無実の罪をきせ、ミットフォート公爵家を没落させようとした。
屋敷や資産、領地を没収し、自分たちの懐を肥やしたあと、ミットフォート公爵家は一族郎党取り潰し、牢獄に幽閉し、時期をみて死刑にというのが連中の計画ということだ。