第44話 命にかえても、あなたを守る
「連中にとって、私は予期せぬ伏兵ということか。それにしてもやけに動きが早い。昨夜の今朝で、ローゼマリアを牢獄から移動させオークションで売ってしまおうとするとはな」
ジャファルが昨夜、ローゼマリアの無罪を証明するため動いたことを、アリス一派はすぐにかぎつけた。
ジャファルとしては、昨夜ローゼマリアを牢獄に残したままにしておきたくなかった。
しかしホテルの買収、アリスと宰相の調査、そして彼女の冤罪をはらすためにいろいろと動きたかった。
彼女を連れ回す方が危険と判断したのだが、それを逆手に取られるとは思わなかった。
ジャファルを出し抜き、朝一番にローゼマリアをオークション会場へと連れて行ってしまったのである。
「私の裏をかくとは、アリスという女は侮れない。……いや、アリスの背後にいる、宰相がやっかいな古狸ということか。面倒なことだ」
動向を探らせていたラムジの報告により、ジャファルは急ぎ一億ルーギルの金を用意させ、オークション会場へと乗り込んだのだ。
「間一髪だったが、無事ローゼマリアを助け出せてよかった」
「そうでございますね」
ラムジがそう返すと、深く頷いた。
ジャファルは一息つくと、目を通した書類をテーブルの上に戻す。
「短時間でここまでの調査、ご苦労だった。悪いが、早朝までもう一仕事頼まれてくれるか?」
「はい。なんでもおっしゃってください」
ジャファルが細かい指示を出すと、ラムジはすべて心得ているという表情で一礼する。
「かしこまりました。すぐにご用意します」
ラムジが、ちらりと寝室の扉へと視線を送る。
「立ち聞きされたときは焦りましたが、さすがはジャファル様。説得成功でございますね」
ジャファルがニヤリと笑うと、自慢げに腕を組む。
「ああ。私の愛の力を持ってすれば、さほど困難なことではない」
そううそぶく主君をどう思ったのか、ラムジが苦笑いする。
「今にも飛び出して行きそうでした。引き留めることができて安堵しております。外にはうじゃうじゃと敵がいますから」
そうだ。目ざといアリス一派は、すぐにジャファルの存在を突き止めた。
今にもローゼマリアを取り戻すため乗り込まんと、周囲に包囲網を敷いている。
ラムジは感嘆したように、ふうと息を吐く。
「まさかローゼマリアさまを匿うために、ホテルを丸ごとお買い上げになるとは思いもよりませんでした」
「奴らはミストリア王国内で好き放題に振る舞っている。ここを私の名義にしてしまえば、勝手な真似はできない」
ジャファルがローゼマリアを強引に抱いたのは、守りを固めたこの場所から、大事な彼女を出したくなかったからだ。
結婚だ、初夜だというのは、口実に過ぎない。
……いや、どさくさ紛れに彼女を自分のものにしたかったという、仄暗い欲望があったことは否めなかった。
しかし本当の目的は、ただひとつ。
ローゼマリアを、なんとしてもジャファルが守りたいのだ。
そう。命にかえても。