第41話 わたくしの身体が目的なのですか?!
ジャファルがそう言うと、秀麗な顔を近づけローゼマリアの頬に、チュッと可愛らしい音を立ててキスをした。
呆気にとられるローゼマリアに艶やかな笑みを見せると、今度は反対側の頬に唇をあてる。
「なにを……」
「あなたは私と結婚し、ローゼ・アルマド・ラ・シーラーンという名になる。その身分証明書を使って国外へと脱出する」
(それって……つまりは、偽の身分証明書ということ?)
そんな都合のいい身分証明書が、簡単に作れるのだろうか?
だがジャファルが口にすると、不可能ではないような気がするから不思議だ。
「どうやって用意するのですか? お金の力を使って……?」
「よくわかっているではないか」
しゃあしゃあとそう言い切るので、ローゼマリアも開いた口が塞がらなくなる。
「それが取引ですか? あなたを結婚することが?」
「ああ。私の妻になることを了承してくれるか?」
ミットフォート公爵家が取りつぶされた今、ローゼマリアと結婚しても彼になんらメリットはないはずだ。
(両親を助ける取引条件が、わたくしと結婚すること? ジャファルさまになんの得があるというの?)
深くものごとを考えていないわけではない。
ただ、この窮状から抜け出すことができ、大事な両親を助け出せるなら――
そう考え、ローゼマリアは小さく頷く。
「は……い」
「嬉しいぞ。ローゼマリア」
ジャファルの形のいい唇が、ローゼマリアの小さな唇に触れてきた。
サファイアのような目を大きく見開き、ローゼマリアは彼を見返す。
「では、今夜は初夜ということになるな」
初夜――?
前世が乙女ゲーマーの喪女であっても、現世が箱入りの公爵令嬢だとしても。
初夜というのは、結婚した新郎新婦が一緒に眠る……つまり、建前上の情交であることくらいの知識はある。
取引の本当の意味とは――
助けてくれる見返りとして、ジャファルに抱かれるということだろうか?
(わ、わたくしの身体が目当てということ? ジャファルさまが、そのようなことを画策するなんて……)
契約上の結婚に初夜は必要なのかと問う前に、ローゼマリアの華奢な身体が恐怖でゾクリと震えた。
(よもやモブ獄卒兵みたいな真似を……? い、いやっ、怖い……)
「それでは、ご、獄卒兵とかアウゼン公爵と一緒ではないですかっ……」
顔を強ばらせ身を固めるローゼマリアに、ジャファルが心外だという表情を向ける。
「あんな連中と一緒にしないでくれないか。無理強いはしたくない」
「で、でも……」