第40話 わたくしが、ジャファルさまの妻?
ローゼマリアの喉が、悔しさでぐっと鳴る。
彼ならどうとでもなると言わんばかりの物言いに、つい言い返したくなる。
「あなたの手には……負えるのですか……?」
救世の聖乙女アリスのためにだけに廻る、この歪な世界で――?
ローゼマリアが疑わしげな目でそう問いかけると、ジャファルが不敵な笑みを浮かべた。
「当然だ。この世のすべては、金の力でどうにかなる」
「は……なんて……横暴な……」
傲慢不遜とも傍若無人ともとれる発言に、ローゼマリアは呆気にとられてしまう。
しかし彼らしいとも思える力強い言葉に、身体の力が抜けていく。
自分が異常に気が昂ぶっていたのだと、やっと自覚できる。
そんなローゼマリアの頬を、ジャファルがそっと撫でてきた。
「あ……」
モブ獄卒兵に触れられたときは、全身の皮膚が引き攣るほどおぞましかったのに。
ジャファルの指はまったく違う。優しく、そして労りを含んでいる。
「落ち着いたか?」
「……少しだけ」
疑いがすべて晴れるわけではない。彼が両親を見捨てると言ったのは間違いないのだから。
もしかしたら、その言葉に彼なりの意味があるのかもしれない。
そう考え、直情的にならないよう、言葉を選んで彼に問いかける。
「わたくしの次に……お父さまとお母さまを助けてくださる……?」
そう呟きジャファルの目を覗き込むと、彼の目が真っすぐにローゼマリアだけを見つめていることに気がつく。
「ああ。約束しよう」
もう少しだけ、彼を信じてもいいのかもしれない――
ローゼマリアは心が平静になるように、深呼吸をなんども繰り返した。
「わたくし、お父さまとお母さまをお助けするお手伝いがしたいです。邪魔でしょうか?」
このまま彼に任せてもいいが、それではローゼマリアの心が不安に苛まれてしまう。
できることなら両親の救出を、なにかしら手伝いたい。そう考えた。
するとジャファルがニヤリと意味ありげに笑い、こんな提案をしてきた。
「私と取引しないか? ローゼマリア」
「取引?」
居丈高なジャファルの面持ちに、剛毅さが混ざる。
「あなたの冤罪を私の手ではらしたいが、どうやらそれをされると困る連中が、なりふり構わず躍起になって動いている。それも頭の悪いやり方でな。低脳の考えることがあまりに突拍子過ぎるので、予測できなくてやりづらい」
低脳というのは、おそらくアリスと宰相一派だと思うが、ジャファルが口にするとなかなか辛辣で、思わず笑いそうになる。
「ひとまずあなたを連れてミストリア王国を脱出したいのだが、それには身分証明書が必要となる」
「身分証明書……?」
「ああ。国境を出るための」
「救国の聖乙女と十人のフォーチュンナイト」というゲームを遊び倒した前世を持つローゼマリアだが、ゲーム中ミストリア王国以外でイベントなど起きなかった。
そのせいか、国境だの身分証明書だのというワードに、きょとんとしてしまう。
「ただし、私の妻……としてだがな」