第37話 放置とか足手まといとか……ひどすぎます!
ローゼマリアの胸が、押し潰されたように痛くなる。
(そんな……だって、ジャファル様はお父さまとお母さまを助けてくださると……確かに、そうおっしゃったわ。放置だなんて、どうして……?)
ローゼマリアほどではないが、話している相手もジャファルの答えに驚いたようだ。
「よろしいのですか? ローゼマリアさまが悲しむと思われますが」
「かまわん。今は足手まといだ。先に、私たちの脱出準備に取りかかってくれ」
(足手まとい……ひどいわ、そんな言いかた……)
ジャファルは、まだ相手と会話を続けている。
ローゼマリアは目の前が真っ暗になって、意識が遠のきそうになった。
(嘘だというの? 彼の言葉はすべて……)
だとすれば、両親を助けることができるのはローゼマリアしかいない。
(自分だけ逃げ出すなんてことはできない。お父さま、お母さま。待っていて……)
その場を離れ、エレベーターに向かって廊下を歩いて行く。
外に出たら、真っ先に自分が捕まるかもしれない。
そんなことは頭ではじゅうじゅう理解しているが、心は衝動に駆られていた。
(お父さま……お母さま……)
「あっ……!」
つま先でカーペットを引っかけてしまい、そのまま廊下にバタンッと倒れ込んでしまう。
すぐに扉が開き、ジャファルが姿を現した。
彼の格好は初めて見たときと同じ、足首まで長さのある白いカンドゥーラ姿だ。
クーフィーヤは取り外しており、少しウェーブのかかった艶やかな黒髪であることを知る。
「目が覚めたのか」
ローゼマリアは倒れ込んだまま、背の高い男を見上げる。
「腹が減っただろう。食事を用意させる。あと風呂か」
空腹などすっかり忘れていたし、入浴好きのローゼマリアだが、今はそんなことはどうでもよかった。
(騙されるものですか。このひとは嘘つきなのよ。お父さまとお母さまを助けてくれると言っていたのに、それを簡単に違えるような……!)
無言のローゼマリアをどう思ったのか、ジャファルは手を差しだし、腕を取ろうとした。
「触らないで!」
パシッと音を立てて大きな手を払いのけると、彼が驚いた顔をした。
ローゼマリアは、もやもやとしている胸のうちを彼にぶつけた。
「もう二度と騙されるものですか!」
「なに?」
ジャファルが形のいい眉毛を歪ませ、拒絶を示すローゼマリアを見下ろしてくる。
「あなたは、わたくしに嘘をついたわ! 両親を助けてくれると言ったのに、放置しろとか足手まといだなんて……こ、この人でなし!」
「立ち聞きしていたのか」