44.その下着、とても気になります
万が一スカートが風でめくれでもしたら、それだけで人生ジエンドではないか。
無理なものは無理。
それに、嫌がる社員に無理やり下着を穿かせようとするなんて、ちょっとしたセクハラである。
「じ、次回でいいですか」
「いいだろう。無理強いさせるつもりはない」
真っ赤な顔で俯くちひろに、逢坂はそれ以上強制してこなかった。
紙袋を取り上げると、ほかの社員に呼びかける。
「誰かフィッティングしてくれ。検品検査も兼ねるから、そのまま自分のものにしていいぞ」
すると色めき立った様子で、他の社員が次々に挙手をした。
「私、やりたいです!」
「私も!」
(みんな、あんな薄っぺらくて生地の面積の少ないパンツを穿きたいの? お腹冷えちゃわない? 特にあの日とか……)
ちひろの懸念など、どこ吹く風。
みな喜んでサンプルを受け取っている。
誰もセクハラなんて騒がない。
それどころか、手に取った商品について逢坂にいろいろと質問し始めた。
「逢坂社長。このショーツ、シームレス仕様になっていますね」
「そうだ。繋ぎ目や縫い目を最小限に加工できる業者を見つけて作ってみた。レース素材のシームレスは珍しいだろう?」
「すごい! これなら細身のパンツやスカートに響かないわ」
「本当ね。画期的。シームレスのショーツって味気ないデザインのものばかりなのよね。これなら機能と見た目を両立できるもの」
女性社員が、キャッキャッと楽しそうにしている。
(画期的? ただのエロい下着じゃないの?)
彼女たちはそのサンプルを見て、すぐに何か気づいたというのに、ちひろはまったくわからなかった。
(恥ずかしくてすぐに返しちゃったけど、そんなに画期的だというなら、しっかり見ればよかった……)
「逢坂社長。お揃いでブラやキャミソールも企画しませんか? こんなに上品なんだもの。ショーツだけなんてもったいないです」
「ブラとセットなら突然のデートにも対応できるわよね。普段使いも勝負用にもなるシームレスショーツ。いいキャッチコピーができそう!」
みな次々に、商品から派生する商品の提案や、販売方法について案を出してくる。
それがまた、購買意欲を増す内容ばかりで、ちひろはなんだか取り残された気分になった。
もう一度先ほどの下着が見たくて、遠目で首を伸ばす。
それに気がついた逢坂が、立ち上がったオコジョみたいにじーっと見ているちひろに声をかけてきた。
「どうした。やはりフィッティングしたくなったのか」
「え? ええと……そういうわけではないんですが、画期的で珍しい下着というのを、もう一度見てみたいなあと思ってしまって……」
たった数分前に嫌だと言ってしまった手前、今更穿いてみたくなったとは恥ずかしくて口が裂けても言えない。
(う、うーん……私ったら、取り繕いかたがヘタクソ過ぎじゃない? バカにされちゃうかな? それとも呆れられちゃう? 恥かいちゃったかも……)