43.総レースのショーツなんて穿けません!
(SSって何? シークレットサービスの略? それともスペシャルな何かとか?)
キョトンとするちひろに、逢坂は説明した。
「SSとは、スプリングアンドサマーの略だ。つまり春夏の新作。アパレル用語だから覚えておいてくれ」
「はい」
ちひろはエクセルの分厚い本を閉じると、何が入っているのだろうと紙袋を開いた。
(フィッティング……ということは試着?)
深く考えず中身を覗くと、総レースの下着が出てきて小さな悲鳴を上げる。
「きゃっ! や、やだ、恥ずかしい!」
「その程度で何を恥ずかしがることがある」
逢坂は平然としているが、異性の前で下着の話をすること自体が恥ずかしい。
おそるおそるその下着を手に取り、まじまじと眺める。
質のいいレースは手になじみがよく、しっとりと柔らかい。
とても凝った花模様で、つなぎ目も少なく、穿きやすそうに見えた。
しかし、これは小さい。
小さすぎる。あちこちが丸見えになってしまう。
「え……これを、フィッティング?」
「そうだ。着用して、穿き心地をモニタリングしてほしい。毎日穿いてみてくれ」
「ここここ……」
「ニワトリの真似か? 突然、宴会芸とかするな」
「違います! こ、こ、こんなスケスケレースで、面積の少ないパンツ穿けません!」
「パンツなんて色気のない言い方をするな。総称してショーツと言うならまだしもだな」
最近知ったのだが、今はヒップが出るようなショーツをTバックとは言わないらしい。
Gストリングス、もしくはタンガ、ソングと呼称する。
手の中にあるレースのショーツも、それくらいの小さい面積しかない。
何がどう違うのかさっぱりわからなかったが、そもそもTバックというのも日本の造語だそうだ。
Gストリングス、タンガ、ソングを見分けるのは難しい。
こじつけだが、タンガとソングは、ほぼ一緒。
Gストリングスは面積が一番少ないと、ちひろは覚えた。
あまりにも差異がなさ過ぎて、正直どうでもいいとすら思えてしまう。
自分が穿くとなれば、名称なんてもっとどうでもいい。
パンツはパンツだ。
何を言われようとも、こんなエロい下着を毎日穿くのは恥ずかしかった。
「み、見えたらどうするんですか? 階段の下からとか、転んだときとか」
さすがに逢坂が鼻白む顔を向けてくる。
「そうそう見えるわけがないだろう。それに、なぜ転ぶ前提だ」
それは私が転びやすいからですとは、口にしなかった。
これ以上鈍くさいという烙印を押されたくない。
といっても総レースのショーツなどを穿いたら、大事なシークレットゾーンも尻も丸見えだ。