至高の果実(生贄を求めて)
ラオーネ・ヴァーシャル・モンシューア。現在れいが飼育している三匹のペットだが、漂着物を集めた一角の外側に在るペット区画に棲んでいるのは、ラオーネとヴァーシャルのみ。モンシューアは漂着物を集めた一角内に在る海の中に棲んでいる。
そのモンシューアに関しては後回しにして、れいはペット区画にやって来ると、ラオーネとヴァーシャルを呼び寄せる。れいが呼びかければ、二匹は直ぐに駆けつけてきた。
駆けつけて来たのは、一軒家ほどの大きさで猛獣のような見た目のラオーネと、山のような巨体に爬虫類のような手足と頭がくっ付いたヴァーシャル。双方ともに機敏で、特に脚が短く見た目が鈍重そうなヴァーシャルがかなりの速度で移動しているのは、初めて見る者を驚愕させるだろう。
そんな二匹がやって来ると、れいはまず二匹を撫でて愛でる。れいにとってペットは癒しの存在。れいの見た目は無表情のまま変わらないが、内心では大層喜んでいた。
一頻り二匹を愛でた後、れいは早速本題に移る。毎日生産して溜め込んでいる果実を二つ取り出し、れいは片手に一つずつ持って二匹の前へと差し出す。
「………………お食べ」
そうした後、一言そう告げて差し出した手を軽く揺する。
ラオーネとヴァーシャルは、その実から感じる強大な力に一瞬躊躇うような素振りを見せたものの、れいの差し出した物なので、意を決してその実を口に含んだ。
れいが差し出した実を二匹が食べると、そのあまりの美味しさに、二匹揃ってカッと目を見開いて驚きを表す。
そのまましばらく咀嚼した後、二匹は名残惜しそうに実を飲み込んだ。
「………………」
二匹から感想を受け取る中、れいは何か変化はないかと二匹の様子を観察する。ついでにその時間を利用して、二匹から感想を聞いた後は、今し方食べさせた果実の説明も二匹にしておいた。
その説明が終わる頃になって、ようやく二匹に変化が訪れる。
ネメシスとエイビスよりも少し時間は掛かったが、二匹の力がグンと増していた。ただし、ネメシスとエイビスに食べさせた時と比べれば、増加した力の量が少ない。
二人に食べさせた後に果実を少し弄ったとはいえ、果実に含まれる力から算出した増加率は、おおよそあの時の増加量の三割程度だろうか。
ラオーネとヴァーシャルはれいが創造した存在ではないが、成長という要素を組み込むために、れい自らが二匹の構成を少し弄ったので、もしかしたらそれが反応しているのかもしれない。増加量を見て、ふとれいにそんな考えが浮かぶ。
果実は力の塊なので、れいと無関係な存在でも多少は力が増大するとは思うが、それでもネメシスとエイビスの時の三割というのは、元々想定していたよりも多かった。
この後二匹同様にモンシューアにも力の果実を食べさせてから、ネメシスとエイビス以外の管理補佐にも力の果実を食べさせてみて、それでもう少し情報を集めてみようとは思っているが、他にれいとは関係の無い誰かに協力してもらった方がいいかもしれない。
だがそうなると、一角内の住民という事になる。その場合は渡す相手に注意しなければならないし、なによりも果実に秘められた力に抗える存在でなければ、力の果実を食べるところにも辿り着けないだろう。
そう考えると、管理補佐とペットを除いたハードゥス内の全ての住民が対象外となってしまう。少しぐらいは情報の収集がしたいので、どうしたものかと考えたれいは、ちょうどよさそうな存在に思い至った。
そこまで考えたところで、まずはモンシューアに、その後にネメシスとエイビス以外の管理補佐に果実を食べさせるために、ラオーネ達に別れを告げて、れいは移動を開始した。