至高の果実(褒賞用の誕生)
「これは……?」
永き時を生きた魔木は、手元の果実に困惑の声を上げた。
「………………力があり余っていたので、余剰分で創ってみました。どうぞ召し上がってみてください」
「は、はい。では……」
れいは簡単な説明と共に、魔木に食べるように促す。魔木はれいの影響を幾ばくかは受けているが、生まれはれいとは関係の無い別の世界なので、境遇としてはラオーネ達に近い。
その結果もおそらくラオーネ達と似たようなものになると思われるが、データは多い方がいいので、それでも構わない。
魔木は蔦のように細い根を地中から伸ばすと、果実に絡ませて地中に取り込む。少しして果実を吸収した魔木の葉が艶やかに茂り、木いっぱいに魔木の実が急速に実っていく。
まるで時を進めたかのように一気に実ったその実は、木の上部を覆い尽くさんばかり。しかし、魔木自身の力はごく僅かに増しただけ。どうやら余剰分の力は、ほぼ全て実の方に流れたようだ。元々魔木の実というのはそういったシステムなので、その結果はおかしくはないだろう。
「………………ふむ。なるほど」
その結果に、納得といった感じでれいは頷く。魔木は力が必要になれば、この生った実を吸収することで己が力に変えることが出来るので、これでいいのだろう。
ただ、今回は膨大な力を一気に取り込んだ結果なので、栄養という面では全く足りていない。つまり、現在実っている実の大半は、膨大な力だけが中に含まれているということになる。
魔木としてはそれでも全く問題ないが、食する側としては味は期待できないかもしれない。そんなことをれいが考えていると、魔木がその実を一つ採ってれいに差し出す。
「どうぞ」
「………………ああ、ありがとうございます」
魔木から実を受け取ったれいは、それを隈なく調べていく。そうすると、どうやられいの創った実の劣化版みたいな物になっているのが判明した。
れいは調べた後、その実を食べてみる。食感は通常の実とそれほど変わらない。いや、やや軽い感じがするか。密度が足りていないのかもしれない。
味の方は美味しいのだが、普段の実とどちらが美味しいかと訊かれれば、普段の実の方が美味しいと即答するだろう。
とはいえ、若木の魔木の実と比べると、こちらの方が味は上のような気がする。しっかりと力が味に変換されているようなので、やはりれいの創った実を参考にして出来たのだろう。
もっとも、味の方は変化することなく、誰が食べても同じ味のようなので、やはりれいが創った実の劣化版ということなのだろう。
魔木の実を食したことで、れいの力が若干回復した。どうやらこちらは力の増加は望めないようで、代わりに消耗した力の回復が出来るらしい。
やはりれいの生産する実の劣化版ということで間違いないだろう。籠められている力はれいが創る実と比べてかなり少ないので、それもしょうがない。
「………………ん? ということは?」
そこでれいは、ふととある結論に辿り着く。つまりこれはれいが創っている実の劣化版なのだ。ということはつまり、これであれば気軽に渡しても問題ないのではないかと。
「………………この実を付けるのに負担は掛かりますか?」
れいの問いに、魔木は自身の調子を確かめるために沈黙する。それからしばらくして。
「多少は疲労しますが、それよりも実以外にも力が巡っているようなので、調子が良くなる方が強いでしょう」
「そうですか………………では、これを量産出来ますか?」
「れい様からまた実を頂ければ可能です。しかし、作るにしてもある程度間を置いて欲しいです」
「間を?」
「はい。何度もやると今度は調子が良くなり過ぎて、逆に不調をきたす恐れがあります」
「なるほど、分かりました。では、全てとは言いませんので、今出来ているこれと同じ物を多めにいただけませんか?」
「勿論。多めと言わずに全てどうぞ」
れいの要請に魔木は快く承諾し、枝を器用に使って、先程一気に付けたばかりの実を次々に収穫してはれいに渡していく。れいはそれを受け取ると、次々と異空間に収納していった。
そうして全ての実を収穫し終えると、魔木は通常の実も幾つか渡してきた。れいはそれも受け取ると、感謝の言葉を返して、そのまま異空間い収納していく。
収穫してみれば一回でも結構な数になったので、これで当分は褒賞に困らないだろう。れいの実の下位互換の実は、美味しくて力を回復してくれるというだけなので問題ない。
本家であるれいの生産した実が、食べた相手に合わせて味が変わる究極の美食であり、食べた者の力を増幅させて一気に成長させるという代物なので、それに比べたら遥かに大人しい。そういうわけで、れいも魔木を通して生産した物ならば、褒賞として気軽に渡しても問題ないだろうと結論付けたのだった。