至高の果実(改良版)
「………………」
れいは手元の果実に目を向ける。
それはれいが自身の力を封じることで生み出された果実だが、先日ネメシスとエイビスをモニターとしてみたところ、すこぶる評判が良かった。しかし、性能が良すぎるというのは問題だろう。
「………………褒美としては使えそうですが」
それも一つの案ではあるが、それでも褒美はそうポンポンと渡すものでもないだろう。それにれいの創った果実は質が良すぎるので、多少の成果では褒賞として渡せない。
現在れいは、その果実を毎日最低一個は創っている。多い時には十個近く創るが、おおよそ日に数個程度は生産している。なので、仮に褒美の一つとして渡すにしても、在庫がどんどん増えていってしまうというわけだ。
それに加えて、力の保存装置も在る。果実の生産も始めたので最初のような速度では溜まっていないが、それでも日々空き容量が順調に減っていっている。
かといって、他に何か方法が在るかといえば微妙なところ。一応その実をれい自身が食せば、創造した時と比べて多少目減りした力が戻ってくる程度の効果はある。
変換効率の問題で、実を食したことによる力の回復量は、実の創造に使用した力と比べて圧倒的に少ない量ではあるので、力を使うという点だけでみれば意味はあるだろう。しかし、それも限度はあるが。
「………………籠める力の量を減らして、小さな実でも創りましょうか?」
現在創っている実が安易に渡す事が出来ないのだとしたら、それより効力が大きく劣る品であれば、もう少し簡単に渡すことが出来るのではなかろうか。そう思い、れいは試しに籠める力の容量を大きく減らした実を生産する。
籠める力の量を減らすと言っても、実を創る過程は同じ。そうして創った結果、実を一つ生産する際に必要な力の効率で言えば、小さい実の方が悪い。おおよそ大きな実一つの生産に必要な力が10だとしたら、小さな実は大きな実に比べて大きさが半分以下だというのに、一つ生産するのに6から7ぐらいの力が必要なのだ。
なので、力の比率で見れば小さな実を生産する方が力を使う。だが、時間的に見れば大きい実の方が効率がいいだろう。熟成させるので、実を一つ生産するのに時間はほぼ変わらない。やるつもりはないが、もしも複数個生産するとなるとより差が開いてしまう。
では味の方はどうかといえば、小さい実は大きい実を薄めたような味だった。不味いわけではないし、それどころか小さい方でもかなり美味しいのだが、大きい方の実を食べた後だと物足りなく感じた。
結果は微妙なところ。気軽に渡せる贈答品としては価値があるだろうが、本来の目的である力の消費で考えれば、更に大きな実を創った方がいいだろう。
「………………それもいいですが」
品質を下げるのではなく、更に上を創る。それはそれでいいのだが、そこまで来ると受け取れる相手も限られてくる。現状でも管理補佐全員が受け取れるギリギリといった力の量なのだから。
「………………難しいものです」
いつも通りに力を凝縮し、それに手を加えてから実の時を早めて熟成させていく。その後に再度力を注入し、もう一度熟成させる。そうして完成した実は力の大半が味の方に変換されているので、籠められている力はそこそこ。無論、これでも管理補佐の中で最も弱い存在が何とか受け取れる程度の力は籠められているのだが。
毎日創造しているだけに、少しずつ改良も加えられている。今では味だけではなく、食感や香りなんかの改良にも力を入れていた。
「………………そういえば、私が創造した存在ではないラオーネ達がこれを食べたらどうなるのでしょうか?」
先日のネメシスとエイビスの変化を思い出したれいはふとそう思い、少し試してみることにした。
「………………食べると何か害になるわけではありませんし、問題はないでしょう」
仮に何も変化がなくとも、美味しい実であることには変わらない。最近では食べた者にとっての最高の味になるように手を加えているので、誰が食べても美味しく感じるだろう。
力の方も害意は一切籠っていない純然たる力なので、それならば余程弱い存在でなければ、食しても問題にはならない。ラオーネ達で言えば、何の問題もないだろう。
というわけで早速試すべく、れいはラオーネ達の居るペット区画へと移動した。