第24話 極彩色の男、ジャファル登場
そこに――
半分以上諦めていたが、心のどこかに一縷の望みを残していた彼が立っていた。
昨夜の正装とは趣が違っており、頭部にクーフィーヤを被ってはいるが、服装は堅苦しい軍人のそれであった。
濃紺色のロングコートに黒革のデザートブーツ。首もとには白のスカーフを巻いている。
肩には金糸のフリンジが揺れるエポーレット、そこからフラジェールが優雅に三本流れていた。
広い肩幅からしっかりとした腰までなめらかなラインを描き、キュッと締められた革ベルトがストイックな印象を醸し出している。
硬質的な軍服の上から、鮮やかな織り模様のカフタンガウンを羽織っているので、ゴージャスさも加わっていた。
長躯というだけでなく、一目でわかる筋肉質な肉体に、頼もしさすら感じてしまう。
なぜ彼だけが、ローゼマリアには極彩色に見えるのだろう。
彼の周囲に金粉が待っているかのごとく、煌びやかで輝いている。
「ジャファル……さま?」
観客席が、ザワッとざわめいた。
百億という数字もさることながら、美貌の偉丈夫が威風堂々と通路階段を下りてくる姿に、目が釘付けになっている。
大きなアタッシュケースを持ち、勢いよく舞台に向かってくるジャファルを目にして、アンノウンが焦り出す。
「ま、待ってくださいよ。突然乱入して百億? そんな大金、すぐに出せるんですか?」
ジャファルが片方の口角を上げると、不敵な笑みを浮かべた。
彼がアタッシュケースを頭の上まで持ち上げると、親指で器用に留め具をバチンッと外す。
「えっ?!」
驚いたのはローゼマリアだけではない。
アンノウンもアウゼン公爵も、観客席でこれまで冷やかしで眺めていた客も。
その場にいた全員が、驚きではっと息を飲んだ。
それを尻目に、ジャファルが開いたアタッシュケースをブンッと振り回す。
大量のルーギル札が、観客席に向かって勢いよく撒かれたのである。
「うわぁあ! 札の雨だ!」
「すごいわ! 拾わないと!」
それまで舞台にのみ視線を集中していた観客が、舞い散る札束に狂喜乱舞した。
我先に札を手にしようと、立ち上がって奪い合う。
アンノウンが浮き足立つ観客席を見て、焦りだした。
「ちょ、ちょっと……これはいったい……」
ジャファルが空になったアタッシュケースを、そのへんにぽいっと投げ捨てる。
大股で舞台に近づくと、片手をついて身軽にひょいと上った。
アンノウンの目の前にまで近寄り、威嚇を込めた目つきで見下ろす。
すでにアンノウンは、恐怖で逃げ腰になっている。
「ななな……なんですかっ! あなたは!」