第23話 百億ルーギルの騎士
「おやおや。このお嬢さんは現実が見えていないようですねえ」
「愚かじゃのう。お嬢さんの愚行により、ミストリア公爵家は一族郎党まで罪がおよび、領地没収、爵位も剥奪されたのじゃぞ? 一億ルーギルどころか、一ルーギルも用意できんのだと理解すべきじゃ」
「なんですって……領地没収、爵位剥奪……? じゃあ。お父さまと、お母さまは……」
「さあのう? わしの興味は美しいローゼマリア。お嬢さんだけじゃ」
「さっさと現実を受け入れましょうよ? このオークションの落札金額で、ミットフォート公爵家……いやもう公爵家はなくなったか。お嬢さんの一族が迷惑をかけたひとたちへの損害賠償が支払われるのですからね」
アンノウンがさも当然というふうにそんなことを言うから、ローゼマリアは追及せずにはいられなくなる。
「迷惑をかけた相手というのは、どなたのことですか?」
思いあたることのないローゼマリアは、強気でそう問うた。
しかしアンノウンは、ローゼマリアがしらばっくれているとでもいうように、眉間に皺を寄せる。
「そりゃあ未来の王妃であられる、アリスさまですよ」
ローゼマリアの全身から、血の気が引いていくのがわかる。
(すべての事象が、アリスの利益や得になるなんて……)
「さあ。観念しなさい。一億ルーギル以上を出してくれる
そう言い捨てると、アンノウンが客席に顔を向けた。
「一億以上を出すかたはおられませんか! おられなければ『黄金の気高き薔薇』と呼ばれた美しき元公爵令嬢は、アウゼン公爵のものになります!」
目の前が真っ暗になる。足が泥沼にはまっているような気がする。
スポットライトが強烈な光を放っているというのに、世界は真っ暗闇で、どこにも希望の光などないような気がした。
アウゼンがニヒヒ……と気持ちの悪い笑いを零し、脱力感でうなだれるローゼマリアの腕を取ろうとした、そのとき――
観客席の最奥の扉が、バタンッと大きな音を立てて開いた。
「百億ルーギルを出そう!」
ローゼマリアを含む全員が、声のした方向へと目を向ける。