第25話 悪役令嬢は謎のヒーローによって助かるのか?
「一億ルーギル以上出す客がいないか問うから、おれが名乗りを上げたまでだ。百億あれば十分だろう」
ジャファルが怒りを込めた低い声でそう言うと、アンノウンがアワアワと観客席とジャファルを交互に見る。
「ななな、なにが百億ですか! あんなふうに撒いてしまっては、一ルーギルも……」
「百億ルーギルもの金を持って歩けるわけがなかろう。あれは、たかだか一億ルーギルだ。あとで残りの九十九億ルーギルを持ってこさせる」
「は? はあ?! たかだか一億って……百億ルーギルもの金を、そんなに簡単に用意できるなんて……何ものですか? あなたは!」
ジャファルは首を竦めて、小馬鹿にするような表情でアンノウンをねめつける。
「私はシーラーンのジャファルだ。特に見知りおく必要はない。二度と貴様のツラはみたくないのでな」
(シーラーン? ジャファルさまは、原油エネルギーと稀少な宝石が産出される、大陸でもっとも裕福な国と言われているシーラーン王国のひとなの?)
唖然としているローゼマリアの前に立つと、アンノウンに見せた硬質的な顔つきとはうってかわって、優しい笑みを浮かべた。
「大丈夫か? ローゼマリア」
手を差し出されたので、おもむろに大きくて骨張った大きな手に視線を落とす。
心が引き込まれるように、その手に向かって自分も手を伸ばした。
すると、ジャファルのほうからローゼマリアの白くほっそりとした指を、ぎゅっと強く握ってくる。
そのままぐいっと引き上げられ、彼の広くて筋肉質な胸にぎゅっと抱きしめられる。
「あっ……」
彼の香りが、ふわりと鼻腔に漂ってくる。
ムスクとハーブ、シトラスが混じったような香りだ。
(なんだかいい香り。オリエンタルで、スパイシーで……ジャファルさまの汗も混じっている……?)
彼の胸に頬がつくと、高鳴る鼓動が肌越しに伝わってくる。
高い体温と激しい心臓音を受け、一見冷静に見えるジャファルが、急いでこの場にきてくれたのだと悟る。
(わたくしは……助かるの? 運命に抗えるの? ジャファルさまのお力で……)
ローゼマリアが上目遣いでジャファルを見上げると、彼もローゼマリアを見つめていた。
「ジャファルさま……」
小さく呟くと、彼の形のいい唇が、ちゅっと可愛らしい音を立てて額に落ちてくる。
(え……? 額に、キス……?)
驚くローゼマリアに、ジャファルが突然固い表情を向けた。
「行くぞ。ここから出る」
「は、はい」