第15話 無事、牢獄から出ることはできましたが……
彼の力強い双眸と確固たる口調に、ローゼマリアは素直にコクリと頷く。
なぜかはわからないが、初めて会った男性だというのに、とても信頼に足るような人物だと思えたからだ。
「わかりましたわ……」
「早急に手配する。しばらく待っていてくれ」
「はい」
彼はローゼマリアの素直な返事に満足したようで、カフタンガウンをひらりとたなびかせると、大股で牢獄を出て行った。
肩に止まっていた黄色いくちばしの鷹が、ちらりとローゼマリアに目を向けてくる。
『待っていろよ。ちゃんと迎えにくるからな』
鷹にまでそう言われたような気がして、誰もいなくなった牢獄で、ふっと笑ってしまう。
気がついたときは、すっかり怯えは心から消え去っていた。
(あまりに衝撃的な登場だったから、彼がなにものか訊けなかったわ。次に会ったとき必ず教えてもらわないと)
静まり返ったカビ臭い牢獄の中――
ローゼマリアはモブ獄卒兵に穢されることがなくなったと安堵した反面、謎の助け手が消えてしまったことに寂寥を感じてしまう。
(でも明日になれば……わたくしは助かるのね)
ジャファルという名前と、ローゼマリアを助けてくれるという意思しかわからないが――
彼の言葉に熱意と重みがあるような気がして、牢獄でひとり残される不安をなんとかやり過ごすことができた。
§§§
――太陽が、やっと稜線から顔を出す、そんな早い時刻。
冷たい石畳の上に横になっていたローゼマリアは、獄卒兵に起こされた。
「出ろ。牢獄の外に迎えがきている」
獄卒兵は、昨夜襲ってきたモブとは別のモブである。
表情と声の抑揚がまったくないので、よりモブ感が強い。
身体がギシギシと軋むほど痛かったが、カビくさい牢獄から出ることができるのはとてもありがたかった。
ローゼマリアは牢屋を出ると、ヨロヨロしながら薄暗い階段を懸命に上っていく。
「あの……迎えとは、どなたですか?」
(ジャファル様かしら? それともお父さま?)
モブ獄卒兵の背に声をかけるが、まるで聞こえてないかのように無視されてしまう。
(愛想が悪いのね。それにしても、やけに存在感の薄い獄卒兵だわ)
王城を取り巻く城壁の地下にある牢獄は、本来は重大な国難を招いた重罪人や、王族に対して不敬や暴挙を働いたものが入れられる、国家反逆罪専用の牢獄である。
まさかその牢獄に、自分が入れられる羽目になるとは思わなかった。
誰かいないだろうかと周囲を窺っていたら、小汚い古ぼけた馬車が車道に止まっているのが見えた。
御者らしき男が現れ、ぞんざいな仕草で馬車の扉を開ける。
どうしたものかと困り果てていたら、いつの間にか表情のないモブ獄卒兵は姿を消していた。
躊躇するローゼマリアに、御者が機嫌の悪い表情を向けてくる。
「早く乗ってくれ。急ぎここから離れなければならない」
「あなたはジャファル様の遣い?」
「……そう、だ。早く。さあ」