第14話 「わたしを信じてほしい」と、あなたは言った
「不存在の立証だと? 悪魔の証明だな。なんとレベルの低い言いわけだ。くだらない」
シークが、より強い目つきで睨みつける。
鋭い眼光を向けられただけで、モブ獄卒兵が縮み上がった。
シークがビクビクするモブ獄卒兵に向かって、強い語調でこう言い切る。
「まあいい。不存在でも、私には容易に立証できる。貴様ら、さっさと出て行け! 目障りだ!」
「ちっ……お、覚えてろ……」
モブ獄卒兵が恨みがましい顔で捨て台詞を吐き、これみよがしに南京錠を施錠した。
そのまま姿を消すと、シークが鉄格子越しにローゼマリアを凝視してくる。
ローゼマリアは、手足が痺れて動けず寝転がったままだ。
いったいどういうなりゆきなのか、鉄の棒の間からシークに視線を向ける。
彼が鉄格子の前まできて、驚くほど優しい笑みを浮かべた。
神々しいまでに整った容貌を間近で見て、ローゼマリアは言葉が出なくなってしまう。
「大丈夫か? ローゼマリア」
名を呼ばれ、やっと我に返った。
「は、はい」
ゆっくりと起き上がり、ローゼマリアも鉄格子の近くまでよたよたと近づく。
それから、もう一度彼の顔をまじまじと見た。
「あなたは……」
「わたしの名はジャファル。あなたを必ず助けよう」
モブ獄卒兵に対する態度とはうってかわって、甘くて温和な声の響き。
ローゼマリアの心がどんどん落ち着いていく。
それでも身体の震えは、なかなか止まらなかった。
「なぜ……?」
シーク……ジャファルは艶やかに笑うと、鉄格子の隙間から節くれ立った指を伸ばしてきた。
そっとローゼマリアの乱れた金髪を指で梳く。
モブ獄卒兵に触れられたときは恐ろしくて身を震わせたが、人情味あふれた声色と表情のジャファルには恐怖を感じない。
彼の繊細で優しい指が、二度ほどローゼマリアの金色の髪をクルクルと弄ぶ。
「本当は、すぐにでもあなたをここから出してあげたい。しかし強引にここから連れ出しても、またしても意味のない冤罪をかけられるだろう」
(このひとは、わたくしに罪がないとわかってくださっている……どうして? 一体なにものなの?)
彼の指が鉄格子から抜けてしまうと、途端に物寂しい気持ちになってしまう。
「あなたが二度とくだらぬことに巻き込まれぬよう、私がしっかりとした手続きを踏んでくる。明日まで待ってくれないか?」
「本当に……?」
「ああ。わたしを信じてほしい」