21.奇跡の採用! 明日から頑張ります!
「いいだろう。明日からきなさい」
「え?」
聞き間違いかと思い、オウム返しで返した。
「明日から……ですか?」
「ああ。失業保険がないと、生活に困るだろう? 一日でも早く働いたほうがいい」
(確かにそうだけど……いいの? 自分で言うのもなんだけど、私はこの会社のレベルにあってないし、そもそも面接がメチャクチャだったんだけど……)
「返事は?」
信じられないという気持ちで呆然とするちひろに、鋭い声が飛んでくる。
「は、はい。ありがとうございます! 明日から頑張ります!」
驚きのあまり語尾が震えるちひろに、彼が優しく微笑んだ。
「おれは株式会社ベルスロープのCEО兼代表取締役の
逢坂凜太郎――
なんと響きのいい綺麗な名前だろう。
逢坂がソファからすっと立ち上がった。
つられてちひろも立ち上がる。
彼が口角を上げると、すっと手を差し出した。
厳しかった面接のあとだからか、それともその大きな手に頼りがいを感じたからか。
ちひろは安堵の気持ちで手を伸ばし、ぎゅっとその手を握り返した。
(温かい……なんだか覚えのあるような……)
厚みのある手に既視感を受け、彼の顔をまじまじと見てしまう。
逢坂が嬉しそうにしているから、胸の奥がキュンと軋んでしまった。
(笑うと優しそう……)
無意識に彼の手を力強く握ってしまう。
「よろしくお願いします! 明日から頑張ります!」
そうエネルギッシュに叫んでしまい、逢坂が驚いた顔をした。
「ああ……頼む」
ちひろは逢坂に、あの日の赤い薔薇のおじさまを重ねてしまった。
「泣くも笑うも君の頑張り次第だ。できれば笑っていてほしいと思っている。それにはかなりの努力が必要だ。明日から気を引き締めて頑張ってくれ」
(しゃべりかたとか雰囲気とか、そこはかとなく似ているもの。……面接では厳しかったけど、内面は優しいひとに違いないわ)
きっと楽しい社会生活を送ることができるだろう。
そんな予感に、ちひろは小さな胸をいっぱいに膨らませていた。
§§§
それが単なる思い込みだと気づくのは、そう遅くはなかった。
翌日から、その逢坂に、しごきにしごかれるのである。