20.この面接は無理そうです。だってレベルが高いもの…
「まあいい。座りなさい。とりあえず面接を始めよう」
「え? あの、私、面接に遅刻したあげく、謝罪もできなかったんですが……」
「言われなくてもわかっている。早く始めよう。おれもそれほど時間があるわけでもない」
「は、はい。ありがとうございます」
(いいの……かな? てっきり面接しない流れになると思ったんだけど……)
ちひろはソファに座りなおすと、トートバッグから紹介状と履歴書を机の上に置いた。
「お願いします」
男はそれらを取り上げると、じっくり時間をかけて中身を確認する。
その間、ちひろは固唾を飲んで待っていた。
(ここは緊張しないといけない場面なのに、どうしても見てしまう……本当に格好いいなあ……)
男の顔が、ふっと上がった。
ちひろは、つい背筋をピンと伸ばしてしまう。
「ハローワークの長谷川から聞いたが、失業保険がかけられていなかったそうだな」
「はい。給与からの天引きになっていたはずですが……どうも騙されていたみたいです」
このあたりは、長谷川にも説明したとおりの内容だ。
情けないことだが事実だし、ちひろに罪のあることではない。
素直に認めても問題はないだろう。
だが彼は、それがあたかもちひろに責任があるような物言いをしてきた。
「給与明細書を保存しておけば救済されたはずだ。そもそも毎月明細を貰った時点で、間違いがないかと確認しないのか? 君はどの仕事も万事、その調子で確認を怠るのか?」
矢継ぎ早にそう突っ込まれ、ちひろは言葉を失う。
「給与明細書は……社長の奥さんが経理だからと、最初から疑っていませんでした。仕事ではないので確認とかまでは……仕事であれば、ちゃんと確認したと思います」
しどろもどろにそう返すと、彼は首を傾げた。
「考えが甘いな。社長の妻が経理ということは、経理上のミスがすべて隠蔽されることになる。もっと社員が監視し、留意すべきだった」
ただの平社員が、社長や社長の妻を監視できるわけがない。
そう返したかったが、なぜか彼ならば不可能ではないような気がした。
発言する内容に重みがある。
そして相手を納得させるだけの説得力があった。
自分の考えかたが、いかに子どもっぽく、社会を甘く見ていたのだと痛感させられる。
(長谷川さん。ごめんなさい。せっかく紹介してもらったけど、面接ムリそう。この会社、レベルがすごく高いもの……わたしなんて、ぜったい面接に受からない……)
これ以上余計なことを言わないように、ちひろは口を閉ざす。
彼は人差し指で無精ひげをカリカリと掻いている。
考え深げな表情だが、サングラスのせいで、ちひろにはあまり読み取れなかった。
気まずい沈黙のあと、彼がおもむろに口を開く。