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Story4

 昨日もこうやって走って逃げてたっけ。
 認識阻害(アンチ・チェック)の能力を使いながら、アリアは瑛士に言われた、第12地区(ブロック)にある、自然緑地公園へと走って向かっていた。
 先ほどの襲撃から時間が流れ、アリアの持っている携帯型のデバイスの画面は、23時半を示していた。アリアは、中々やってこない瑛士を心配すると共に、不安になっていた。もしかしたら、先ほどの人に殺されてしまったのではないか、と悪い方へと考えてしまっていた。
 それから少し時間が経った時、公園の中に誰かが入ってきた。暗くてよくわからなかったが、着ている服は、先ほど瑛士が着ていた服と同じ服だったため、瑛士が来たと思ったアリアは、隠れていた茂みから飛び出した。

「エイジ!」
「おーやおやおやおや」
「!!!」
「もしや、先ほど貴方を助けたあの男と見間違えたのですかな?」

 しかし、瑛士だと思ったのは、先ほど襲ってきた刀を持った男であった。瑛士の服を着て、おびき寄せたのだ。電灯の少ないことが、仇となった。

「エイジは・・・・・・! エイジはどうしたの!」
「ふっ。そんなに、あの男が大事ですか。だが、安心してください。命までは取っていませんよ。貴方が、デルタコードを渡してくれれば、あの男は返しましょう。さぁ、デルタコードを渡しなさい!」
「さっきから、なんなのよ! デルタコードって! そんなの私知らないわ!」

 もちろん嘘である。
 デルタコードとは、学園都市のどこかにある5つのコードのうちの一つで、5つ全てを手に入れると、究極の何かが手に入るとされている。その何かはわかっていない。なぜなら、都市伝説だと思われているからだ。
 そして、その都市伝説とされる、デルタコード。それは今、アリアの持っている携帯型デバイスの中に存在していた。

「大体、知ってたとしても、あんたに教えるわけないでしょ!」
「ふふふ。そうですか。あの男がどうなってもよいのですね・・・・・・」

 瑛士とは、今日出会ったばかりだ。しかし、この短時間の中でも、なぜか彼のことは少しは信じられるように思っていた。
 デルタコードは大事だが、彼の命も大事なのだ。どちらかを取るとすれば、瑛士の命かもしれない。

「先ほどの部屋には、私の部下がいましてねぇ。彼に命じれば、即座にあの男を殺すでしょう。何の躊躇いもなく、ね」
「くっ・・・・・・」

 正直な話、目の前の男が言っていることの確証はない。ハッタリかもしれないし、真実かもしれない。ただ、一つだけわかっていることといえば、どんな返答をしようとも、アリアも瑛士も、遅かれ早かれこの男の手によって殺されるということだけだった。

認識阻害(アンチ・チェック)!」

 それと同時に、アリアの体は目の前の男からは見えなくなった。

「やれやれ。私も、かくれんぼや鬼ごっこは嫌いではありませんがね。しかし、もはやそれも飽きました。昨日から同じ事の繰り返し。ようやく見つけたのです。これ以上、逃がしはしませんよ。旋風・二ノ型。疾風斬」

 素早くアリアのいた場所へ、居合斬りのごとく斬りかかってきた。
 アリアは危うく斬られかかったものの、間一髪、紙一重でその斬戟をかわした。

「ほう、かわすか。ならば、これならどうだ! 旋風・三ノ型。氷風陣!」

 男が刀を回転切りのように振ると同時に、男の周囲には猛吹雪が吹き荒れ始めた。

「能力者にとって、寒さは天敵。思考が鈍り、能力の精度が落ちる。そして、途切れる」
「し、しまった・・・・・・!」

 アリアは、吹雪の勢力範囲から逃げだそうとしたが、予想以上の強さだったために逃げ切れず、また、手足がかじかんでしまい、思うように動けなかった。
 アリアは能力を維持できず、認識阻害(アンチ・チェック)は解除されてしまい、男からアリアの姿が視認できるようになってしまった。

「よくぞ、ここまで私から逃げたものです。しかし、それもここまで。さぁ、デルタコードを渡しなさい」
「ぐっ・・・・・・」

 地面に突っ伏して倒れたアリアの首筋に、男の刀が当てられていた。いつでもお前を殺せるぞ、と暗に言っているようであった。

「わ、渡さない・・・・・・。あんたなんかに、絶対・・・・・・!」
「ほう。まだそのような元気があったか・・・・・・。ならば、貴様を殺してから見つけ出すまで。死ねっ!」

 男が刀を振り上げた。しかし、刀が振り下ろされることはなかった。
 何があったのか、と恐る恐る目を開けると、瑛士が男の刀を白刃取りしていた。

「え、エイジ!」
「貴様! なぜここに! なぜ動ける! その体で!」

 見ると、瑛士は体がボロボロであった。至る所に青アザが出来ていたり、男の刀で出来たであろう切り傷などもあった。

「まぁ、いい・・・・・・。貴様ごと、斬り捨てればいいだけだ!」

 男は更に力をこめ、刀を振り下ろそうとした。しかし、出来なかった。
 明らかに、瑛士とは全く別の能力が働いていた。しかし、男はそれに気がつけなかった。

「ぐっ・・・・・・! なぜだ、なぜ振り下ろせん!」
「当たり前だよ」
「「「!?」」」
「だってそれ、そこのそいつじゃなくて、私がやってんだもん」
「だ、誰だ!」

 待ってました、と言わんばかりに雲が切れ、雲の切れ間から月明かりが声の主の方へと差し込んだ。
 月明かりが差し込んだその場所には、1人の少女が立っていた。

「き、貴様は・・・・・・!」
「燃えるような、肩まで伸びた赤い髪に、それを強調するような真っ白な髪飾り・・・・・・」
「学園都市に5人しかいない最強能力者(レベル7)の1人、新荘真由・・・・・・!」
「説明ドーモ」

 真由は、手をヒラヒラさせた。顔は笑っているが、目は笑っていなかった。
 彼女を見て、刀を持った男は分かりやすいほど狼狽えていた。

「き、貴様がなぜここにいる! 最強能力者(レベル7)どもは、本部が抑えていると言っていたぞ!」
「他の最強能力者(レベル7)の連中がどうかは知らないけどさ。あんたの言う本部だっけ? あの程度じゃあ、私は止められないよ?」
「ぐっ・・・・・・。(話しが違うぞ、入江・・・・・・! だが、ここで最強能力者(レベル7)を仕留められれば、俺の評価も上がる!) 手ぶらで、手ぶらで帰るわけにはいかないんだよ! 旋風・二ノ型! 疾風斬!」

 そう叫ぶと、男は真由に斬りかかった。しかし、真由はその剣戟の軌道が見えているかのように、その全てを避けきった。

「はぁ、はぁ、はぁ。く、くそがぁぁぁ!」

 男は、力任せに刀を振り下ろし、真由を一刀両断しようとした。しかし、真由はその力任せに振り下ろされた重い一撃を、たった指二本で止めてしまった。

「ば、バカな!」

 真由は、刀を男から奪い取って真っ二つに折った後、男のへと放り投げた。
 真っ二つに折られた刀は、男の足下に刺さると、男はそれを回収して逃げていった。

「ふん。口ほどにもないわね」
「た、助かったぁ」
「じゃ、私はこれで」
「ま、待って!」
「ん?」
「あ、ありがとう」

 アリアは、真由にお礼の言葉を述べた。その言葉を聞いた真由は、笑顔で手を振りながら、その場を去って行った。

――――――――――――――――――

「はぁ、はぁ、はぁ」
「やぁ、鴉。失敗したようだね」
「入江・・・・・・! 貴様ぁ!」
「確かに、新荘真由の足止めが出来なかったのは、こちらの落ち度かもしれない。しかし、絶好のチャンスでデルタコードを手に入れられなかったのは、君のミスだ」
「ぐっ」
「ふふふ。査定を楽しみにしておくことだね」

 そう言うと、入江と呼ばれた男は闇の中へと消えていった。

――――――――――――――――――

「ねぇ、エイジ。なんで私を助けに来てくれたの?」
「・・・・・・お前の顔が、助けを求めてる顔だったからだ」
「え?」
「女の子が、助けを求めてんだ。男として、見過ごすわけにはいかねーだろ?」
「エイジ・・・・・・。ありがと・・・・・・」

 そして、エイジとアリアは寮へと戻るのであった。

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