2 孤独の探検家
「寒い寒い寒い」
普段外に出ない俺が南極ツアーに来るのも精一杯なのに遭難なんて......
アヤトは寒さのあまり蹲りながらガクガクと震える。
体の感覚が無くなってきた。
俺死ぬんだ......
まぁどうせ戻ったって、つまらない人生しか待ってないんだし、別にいいか......
背後から大きな音がして、それと同時にとてつもない地響きが鳴り響く。
表しようの無い恐怖がアヤトを襲う。 そしてアヤトは、恐る恐る振り返る。
背後からするこの音......コレってまるで猛獣の鳴きごっ
そこには、4mほどの熊に似た何かが、立っていた。
やっぱり死にたくたいっ!
とっさにアヤトの体は動き出す。
だがアヤトの意思とは裏腹に下半身が付いてこない。
くそっ足の感覚がない......死ぬっ!
熊がアヤトに飛びかかってくる。
死を覚悟したその時、地面に亀裂が入りそこから鎖が飛び出す。鎖の先端が首輪に変形し熊の首に巻きつき、熊は動きを止める。
その後何者かが2つの鉄球を熊に向かって投げる。 鉄球は足輪に変形して熊の足を拘束する。
何が起こった......?
眠たい。 気が遠くなる。
これ寝たら死ぬってやつだろ?
あーダメだ、我慢できない、死ぬ......
アヤトは寒さのせいか気を失う。
ん......
何処だここ......
アヤトが目を覚まし、周りを見渡すと金属製の壁に囲まれた狭い空間だった。
すると扉が開きそこから誰かが入ってくる。
「おう。目ぇ覚めたか?」
「あんたは......」
髭面の中年男がそこにいた。
「俺はマーベリックだ、ここに住んでんだ。飲め」
そう言ってマーベリックは暖かいスープを差し出した。
「どうも......」
南極に民族なんて居たっけ?
「で? お前はこんなとこで何やってる?」
「俺は......」
そうだ俺は、ワープウォールを越えちまって遭難してたんだ。
て事はこのおっさんは......
「あんたこそ何者だ? ワープウォールの中は人類未開の地のはずだぞ!」
「ワープウォール? なんだそりゃ」
「知らないのか? ここ南極大陸でワープウォールが発見されたって」
「確かにここは大陸だが、そんな名前じゃねぇよ。直径5万キロの氷の大陸、アイスグレイルだ。ワープ何とかってのは知らんな」
「5万キロ? ありねぇよ、地球がすっぽり入るじゃねぇか!」
「嘘は言ってねぇよ」
マーベリックは古臭い地図を取り出した。
「俺らが居るのが、アイスグレイルの1番端のここだ」
そう言ってマーベリックは地図いっぱいに描かれた氷の大陸の1番端を指差した。
ん〜
仮に、このおっさんが言ってる事が、本当だとして俺の話も本当だ。
つまり二人の話を掛け合わせると、まるで......
地球平面説みたいだ!
地球平面説とは、地球は球体ではなく平面なのではないかと言う都市伝説。
北極を中心に世界は存在し、その周りには、氷の壁つまり南極が覆っている。
つまり人類は、南極の中心にある、ドーム型のワープウォールの中に入ろうとしていたけど、実際は氷の壁の外に出ようとしていたわけか?
「どうかしたか?」
唖然とするアヤトを見て不思議そうな顔をするマーベリック。
そうかこのおっさんも、ワープウォールを通り抜けられないのか、だからここを巨大な大陸だと勘違いしてるんだ......
「あんたが言ってる事が本当だとして、この大陸の外には何があるんだ?」
「海だ」
「え? 宇宙じゃ無くて海? そんなのありえねぇだろ......」
「ついて来い、見せてやるよ」
混乱しているアヤトは言われるがままマーベリックについて行き小屋の外に出る。
「うぁぁぁーっ! コイツッ‼︎」
そこにはソリと共にアヤトを襲った熊がいる。
「落ち着け、コイツは俺が手懐けてある」
「コイツは俺を食おうとした奴だぞ!」
「アイツとは違う奴だ」
「そう言えば、熊をどうやって追い払ったんだ! 鎖がありえない動きしてたぞ!」
「あれはテクニックだ。魔術とか妖術とかそう言うやつだよ」
「魔術? 何言ってんの......?」
「いいから乗れよ」
何が何だかわからないままソリは何処かえ向けて走り出した。
世界の外に海があるとか、そんなの常識的に考えてありえねぇ。
アヤトはソリの中で揺られながらそう思った。
しばらくするとソリが止まり、外からマーベリックの声が聞こえる。
「ついたぞ〜」
アヤトがソリを降りるとそこにはとてつも無く広い海があった。その光景を見て、アヤトの全身に鳥肌が立つ。
常識的にありえない?
違う!
氷の壁に囲われた小さな世界の常識なんて、有って無い様なもんだ......くだらねぇ
俺はどんな小さな世界で生きてきたんだ......
「な? 俺の話は本当だっただろ?次はお前の番だ、お前は何者だ? こんな所で何してんだ?」
マーベリックは放心状態のアヤトを見てニヤニヤとそう言った。
その後小屋に戻りアヤトは全てを話した。氷の壁の中に有る世界の事 ワープウォールを越えてしまった事 元の世界に戻れない事。
「そうか、なるほど、やっぱりな......」
「ん? 何か言った?」
「いやっ 話は分かった! にわかには信じがたいが、だがだとしたらこれからどうする? もう故郷には戻れないんだろ?」
「そうだった......どうしよう......」
アヤトは忘れかけてた現実を突きつけられて頭を抱える。
「一生ここで生きていく訳にはいかんだろ?
つまんねぇぞ? 暇だぞ? 氷しかねぇこんな所で青春無駄にすんのか?」
マーベリックは煽る様にそう言った。
「じゃあ何でこんな所に住んでんだよ」
「俺は探検家だからな」
「冒険家? 何それ」
「この世界は果てし無く広いんだ、世界のほとんどは未だ未解明、発見されてねぇ文化も存在するとされている。そんな世界を探索すんのが俺みたいな探検家だ」
「探検家か......」
オカルトマニアの俺としては、ちょっと興味があるな。
「どうやったら探検家になれるんだ?」
「まずは一年に一度開かれる、探検家の試験に合格すんのが、順当な方法だな」
探検家の試験......
一気にファンタジーっぽくなってきたな、ここで頼れるのは、マーベリックのおっさんだけ......探検家になれば、ワープウォールの中に戻る方法や俺達の世界が氷の壁とワープウォールに囲われて居る理由にも辿り着くかもしれねぇ
探検家になる以外に道はねぇ!