2.出勤したら……計画倒産! って……悲惨です
エレベーターがなく、三階まで階段を使わないといけないので、ちょっとした運動である。
階段を昇りきると、会社のドアの前に人だかりができていた。
顔見知りの同僚たちは誰ひとり中に入らず、ドアの前で立ち尽くしている。
いつもとまったく違う様子に、ちひろは首を傾げた。
「おはようございまぁす?」
みな不安そうな面持ちのまま、返事もない。
どうしたのだろうと思い、開け放たれたドアから中を覗くと――
「え!? 何?」
驚くべきことに、会社はもぬけの殻だった。
机も椅子もパソコンも。
パーティションもプリンターもない。
文字どおり、本当に何もなかった。
「どういうこと?」
呆然としていると、仲のいい同僚が話しかけてきた。
「ちひろちゃん。大変よ」
「何があったんですか?」
同僚が、今しがた起こったことを詳細に教えてくれた。
朝一番に出社した社員が、少しだけ扉が開いていることに気がついた。
てっきり、昨夜最後まで仕事をしていた社員が、鍵をかけ忘れたのかもしれない。
強盗が潜んでいたら怖いからと、警備員を呼んで一緒に中に入った。
すると、中には何もなかったというわけだ。
警備員が慌ててビルのオーナーに確認を取ったところ、オーナーも寝耳に水らしい。
「じゃあ、これは……」
まったくもって突然の話に、ちひろも戸惑うしかない。
「それがね、計画倒産じゃないかって」
「計画倒産……?」
計画倒産とは、企業を計画的に倒産させること――
予め計画してこっそりと資産を移動したり、どこかに隠した状態で倒産させたりする行為。
場合によっては犯罪になることもある。
優しい社長が計画倒産をしたとはどうしても考えられず、ちひろは目の前の事態を受け入れられない。
しかし同僚の次の言葉に、ちひろは愕然としてしまう。
「それだけじゃないの。社長が夜逃げしちゃったみたいで、連絡取れないのよ」
「夜逃げ……? でも……」
昨日のことだ――
ちひろは社長に呼び出され、給料の振り込みが遅くなると聞かされた。
本来は、その日が給与振り込み日だった。
しかし経理の処理が遅くて、ちひろの分だけ間に合わないという。
お詫びとして少し多めに振り込むから、ほかの社員には内緒にしてくれとまで言われた。
「二週間後、ボーナスと一緒に振り込むって……経理の処理が遅いからって聞いたけど」
同僚が悲しそうな顔で、頭を左右に振った。
「みんな、そう言われたのよ。多分……支払われないだろうって」
経理担当は社長の妻だ。
計画倒産ならば、振り込まれない可能性が高い。
「じゃあ……どうやって、明日から生活すれば……」