2.裸のイケオジにキスされていますって……夢じゃないですよね?
おそらく普通すぎるほど普通の下着を穿いていたと思う。
レースやリボンくらいはついているかもしれないが、ヘソが隠れるくらい大きかったはず。
そもそもちひろは、勝負用の下着を持っていない。
イケメンに愛されるなんてシチュエーション、一生縁がないとまで思っていたくらいだ。
彼はちひろのモヤモヤを払しょくするように、優しく何度も頬に唇を当てる。
チュッ、チュッ……
右の頬も左の頬も。額も、果ては鼻先も。
優しい仕草に、ちひろの気持ちがどんどん盛り上がっていく。
「ひゃっ……ぁんっ……」
首筋に顔をうずめられ、くすぐったくて裏返った声を出してしまう。
「ここが感じるようだね」
彼は首筋ばかりを責めくる。
ちひろは可愛くない下着のことなんて、頭から飛んで行ってしまった。
「やぁっ……んっ……」
「可愛い声だ。もっと啼いてくれないか? ちひろ」
ちひろは名乗ったのに、彼は名乗ってくれない。
(もしかして、遊ばれている……の?)
「……ひどい」
そう言い、くすぐってばかりしてくる彼を恨みがましく見返す。
彼は余裕の態度で、ふっと優雅に笑った。
「ちひろは、とても感じやすいな」
(私のこと、子どもっぽいと思っているの?)
むくれた顔のちひろに、彼が何度も小鳥のようなキスを落とす。
「ちひろ。嫌なことも辛いことも忘れさせてやるから、おれに身を任せてくれないか?」
「おじさま……」
(嫌なこと……辛いこと……そう、そうよ。思い出した。私……)
ちひろは今日、信じていたひとに裏切られた。
仕事を失っただけでなく、今月の給料も貰えず、明日からの生活には不安しかない。
(会社が倒産しちゃったんだ。明日から、どうやって生きていけばいいの……?)
泣き出しそうになるちひろの髪を、彼が優しく撫で上げる。
大きくて頼りがいがあって温情深い手に、ちひろの心が温かくなっていく。
(おじさまの手……とても優しい……慰めてくれるの……?)
彼の言うとおり、今は嫌なことを忘れよう。
素直に甘えて、愛撫に身を任せて、オジサマの愛で意識を満たしてしまおう。
ちひろは自ら両手を伸ばし、彼の広くしっかりとした背に腕を回した。
より密着する態勢になり、気恥ずかしさと愛おしさが同時にこみあげてくる。
「そう。しっかりとおれに掴まって」
彼の唇と優しい声に誘われ、夢のような快楽へとどんどん意識が引き込まれていく。
「いい子だ。ちひろ」
「おじさま……」
§§§
今日は、いろんなことがあった日だった。
会社が倒産して、明日からどうすればいいのかわからない。そんな心許ない心境だった。
普通なら、ちひろの心は不安でいっぱいのはず……。
でも今は逆の心境だ。ちひろの心と身体は、彼の思いやりでいっぱいに満たされている。
優しいオジサマに優しく労られ、甘いキスをたくさん受けて。
肌を触れあわせて、愛をたくさん与えられ。
優しい言葉をいっぱい囁かれて、お姫様みたいに大切に扱われ。
嫌なことや、辛いことが、すっかり押し流された頃。
§§§
ちひろは、幸せの心地のまま気を失ってしまった――