1.気がついたら、裸のイケオジとベッドの中?!
可愛いお嬢さん。君の名を教えてほしい――
§§§
その声が聞こえたとき。
ちひろは波に揺らされているような心地よさで、天井をぼんやりと見ていた。
(ええと……どういう状態……なの……?)
寝ているわけではない。ぼんやりとだが意識はある。
だが、自分が今どこで何をしているのか、さっぱり理解できなかった。
(気持ちいい……ここは、どこ?)
視界に移るのは、間接照明の柔らかなオレンジの光が映り込む天井。
中央には木製のシーリングファンが回っていた。
まるで宙に浮いているみたいにフカフカなベッドで寝ている。
直接肌を擦るシーツも高級な生地なのか、なめらかでしっとりしていて気持ちがいい。
(えっ……私……何も着ていない……?)
どうして裸で寝ているのだろう。
(ええと……ホテルのバーで、珍しいカクテルを飲んで……それから……)
思考を遮るように、大きくて硬くて筋肉質な身体が、ちひろの華奢な身体をふわりと包み込む。
「え……?」
「辛くないか?」
耳元で囁かれる低く掠れた声が、ちひろの心を切なく震わせた。
「あっ……」
チュッ――
思わず身をよじらせると、頬に可愛い音を立てて、キスをされてしまった。
「ふぁ……?」
優しいキスは頬だけではない。
額や耳の下、首筋にもたくさん与えられる。
ゾクゾクとした快感が背筋からこみ上げ、ちひろは小さな喘ぎ声を漏らしてしまった。
「ふぁ……あぁん……」
「可愛い声だな」
彼がふっと笑うだけで、ちひろの腰がビクビクと震える。
潤む目で見返すと、目と鼻の先に、驚くくらいに整った顔の男性があった。
ドクンッと胸が激しく高鳴る。
(ちょっとオジさんだけど……すごくイケメン……やだ、どうしてこんなことに……)
彼が笑うと、後ろに流していた艶やかな髪がハラリと頬に落ちた。
少し乱れた髪が端正な面持ちに陰影をつけて、とてもセクシーだ。
垂れ気味の目じりに、すっきりとした高い鼻梁。
柔らかそうな唇に男らしい頬骨と顎。
太くしっかりとした首筋からも、男の色気を感じてしまう。
鍛えているとひと目でわかる厚い胸板が目の前にきて、ちひろの心臓がバクバクと高鳴った。
(なんてステキなオジサマなの? こんな格好いいひとに抱きしめられたら、どうでもよくなっちゃう……)
それにしても、どうして目の前の男性は裸なのだろう。
そして、なぜ自分も裸なのだろうと、頭の中にハテナマークがいくつも飛ぶ。
(? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ?)
「愛らしいお嬢さん。名前を教えてくれないか?」
(名前も知らない相手と……? 私、いったい……)
「おれは気に入った相手とは、名を呼んで愛し合いたいんでね」
首筋をくすぐるように囁かれ、疑惑がすぐに押し流される。
(気に入った……私のことを……?)
どういう流れであろうと、こんなに優しくてステキな男性に愛されるなんて。
今後の人生で二度とないかもしれない。
「ちひろ……です」
「ちひろ。かわいい名だ」
彼の鼻にかかった甘ったるい声が、ちひろの鼓膜をとおり抜け腰にズシンと落ちてくる。
(私、どんな下着だったっけ? どうしよう、普段用のパンツだったら……)