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れい(本体)は考える

 分身という力が在る。それは己を分ける力で、その性能は術者次第。未熟な者の分身で生み出される存在は、時間制限付きの幻影でしかない。
 ハードゥスの管理者であるれいも、この分身により生み出された分身体である。ただし、術者が最高峰の実力者なので、実体はあるし時間制限はない。
 強さは、基本的に本体と分けた分身体で等分。いや、正確には少し本体の方が強い。分身体を一体創り出した場合に何もしなければ、おおよそ六対四の割合で力が割り振られる。勿論、六が本体で四が分身体である。
 そんな分身体をれいは、訳あって無数に生み出してあらゆる世界を監視している。その分一体一体の力は弱くなっているのだが、それでも一体の強さは、れいの創造主の百倍以上。そして最近は、一気に増やし過ぎたその分身体の数をほんの少しだけ減らそうかと考えていた。
「………………つまらないですからね」
 最初に管理する事になった世界に居る本体のれいは、遠くを見るような目でそう呟く。
 れいの本体と分身体はほとんどの記憶や知識を共有しているので、得ようと思えば様々な情報が得られる。ベースは同じでも、環境による変化によって考え方や行動が少しずつ異なってくるので、情報の共有を利用して会議や相談も行えた。
 そういうわけで、外の世界の情勢をリアルタイムで分身体から得ていたれいは、あまりのつまらなさに辟易していた。最近の管理者は、まるで管理者が管理する世界に創造した生き物のようにさえ思えてくる。
「………………創造主も短絡的なものです」
 外の世界への力の供給。その一環という側面も在るのだろうが、実際のところ、それは必要のない事であった。元々外の世界はそこで全てが循環して完結していた場所なのだから、それにわざわざ手を加える必要はないのだ。
 それぐらい創造主でも知っているはずなのだがとれいは考えたが、おそらく観劇気分なのだろう。
「………………あんなものでも長いこと色々な世界を観てきたわけですからね、大なり小なり影響も受けますか」
 珍しく僅かな侮蔑を含んだ言葉だが、それは誰かが耳にすることなく消えていった。
 それかられいは、不要となった分身体を幾つか消す。それにより、力が再分配されて個々の分身体も強化された。元々敵無しだったので、それにあまり意味はないが。
 それから自身が管理している世界の方へと意識を向ける。
 世界が誕生してもうかなりの年月が経過しているので、れいの管理している世界はかなり発展しているが、それでも何度も文明が発達し過ぎては滅んでいた。
 そこから徐々に再興しているので、これもまた循環していると言えるのかもしれない。
 それにその世界はかなり広く、文明が多様化し過ぎているので、定期的に何処かが滅んだ方がバランスが取れるのだろう。その辺りは管理補佐達に任せているので、れいは見守るだけで口出しはしない。
「………………ハードゥスと文化交流というのをやってみてもいいかもしれませんね」
 ふとそんな事を思いついたれいだが、現実的ではないかと首を振る。それをするには、自身が管理している世界があまりにも発展し過ぎていた。
「………………このまま外の世界が騒がしいままのようでしたら、少し介入も考えなければなりませんね」
 思案したれいは今後の事を思い、もう少し様子を見て、結果次第でそうする事に決めた。今のままだと、ハードゥスに負担が掛かりすぎている。
 それは、実際に管理しているのは分身体とはいえ、れいにとっては望ましい事ではなかった。たとえハードゥスに余力がかなりあったとしても。

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