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予期せぬアクシデント

 洞穴を一直線に進んでいると、こうもりらしき物体があちこちを飛んでいた。建物の緊迫感を出すために、用意されたのだと思われる。

 こうもりを素通りしようと考えていると、どういうわけかこちらに向かってきた。

「こうもり2体と遭遇した」

「こうもり」は羽をパタパタさせることで、鼓膜に不快な音を届ける。戦闘以外においても、プレイヤーにストレスを与えるタイプのようだ。

 クスリは「こうげき」コマンドを選択した。どれくらいの強さなのかはわからないけど、2~3発くらい命中させられれば撃破できると思う。素早さは高くとも、耐久力は低そうだ。

「こうもりは素早い動きで攻撃をかわした」

 物理攻撃は回避されることもあるのか。100パーセント命中させられるわけではないことを頭に叩き込ませておく。

 こうもり2体から攻撃を受け、合計で7のダメージを受けた。素早さは高いものの、攻撃力は
「ピータン」よりも低い。敵に攻撃を命中させられれば、簡単に倒せそうだ。

「こうもり1」に二度目の攻撃を仕掛けるも、再び回避されてしまった。回避率は高めに設定されているのかな。

 見た目は強くないくせに、無駄に延命するタイプっているよな。プレイヤーの手を煩わせずに、とっととくたばればいいのに。無駄に戦闘をさせられると、ストレスを蓄積させることになる。

「こうもり1は羽をはばたかせプレイヤーを挑発」 

挑発されたとしても、こちらに有害なわけではない。寛容な心でやり過ごすことにした。

「こうもり2」はなかなか攻撃を仕掛けてこなかった。何をしているのかなと思っていると、体内の血を吸われる感触があった。 

「こうもり2は吸血の魔法を唱えた。クスリはHPを10ポイント吸われた」

 血を抜かれたからか、身体は少しだけフラフラした。こういったところも忠実に再現しているのかもしれない。

「こうもり」の攻撃力は低いと油断していたけど、吸血の魔法の威力は侮れない。こちらを唱えられると厄介なので、なるべく早く撃破したい。

 クスリは「こうもり1」を攻撃対象とする。三度目の正直を祈っていると、ターゲットを捉えた。

「こうもり1に1000のダメージ。こうもり1を倒した」

「ピータン」の40倍近いダメージを一撃で与えられるとは。「こうもり」が物理攻撃に弱い敵であったとしても、ダメージはインフレしすぎではないか。数字の感覚を麻痺させるのを狙いとしているのかな。

 攻撃を回避する「こうもり」に苦戦しつつも、どうにかこうもり2体を撃破することに成功した。

「経験点を50得た。レベルアップした」 

 レベルは上昇しやすい部類に入りそうだ。建物内の敵を倒すだけで、充分な経験点を得られる仕組みになっているのかな。マップをうろつく手間を省ければ、大幅に時間を短縮できる。

「こうもり」を倒した直後の出来事だった。視界は完全に真っ暗になった。どちらに進めばいいのかわからなくなった。

「こうもり」は室内における明かりの役目を果たしていたのか。そうとは知らずに攻撃を加えたことを後悔した。

 明かりをつけられるまで、じっとしているしかなさそうだ。敵と遭遇すれば、一貫の終わりだ。

 じっとしているだけであっても、人間のお腹は徐々に空いていく。数日間も光を照らされない状況だと、ジ・エンドとなる。

 暗闇による恐怖感は半端なかった。光を認識できることはどんなにありがたいことなのか、初めて知ることとなった。

 待機している間に、敵に襲われないとも限らない。「やくそう」をHPが満タンになるまで使用しておこうと考えた。

 数秒後に回復を断念することとなった。ダンジョン内だけでなく、アイテム画面も見えなくなってしまっていた。アイテムを使用したくとも、何をしているのかわからない。

 暗闇の中で必死に目を慣らそうとするも、周囲は黒一色だった。洞窟の中にはかすかな光すら漏れていなかった。救済策を用意しないあたり、ゲームの厳しさを感じた。

 じっとしているはずなのに、画面は切り替わることとなった。移動しなくても、敵と戦う仕様になっているのか。そのようなRPGはきいたこともない。鬼畜仕様にも程がある。

 戦闘画面になっても、闇に包まれていた。ターゲットはどこにいるのか全く見えなかった。 

 真っ暗の中で敵を倒せるはずないだろ。最初からHPを減らされていることといい、かなりの鬼畜仕様となっている。

 コマンドは「こうげき」、「ぼうぎょ」、「にげる」、「アイテム」の順番だったはず。

 クスリは「こうげき」を選択するも、命中させることはできなかった。ターゲットも見えない
状態なので、こうなるのは必然といえる。

 暗闇だから敵も攻撃を命中させることはできないはず、そのように思っていると「ピータン」は的確に攻撃を当ててきた。暗闇のデメリットはプレイヤーだけに適用されているようだ。
光を失っている状況で、「ピータン」だと判別できたのは、木の枝をかすめる感触があったから。目では認知できなくとも、肌は正常に機能している。

 画面に表示された文字を読めないため、敵からどれだけのダメージを受けたのかさっぱりわからなかった。0以外の数値なら、攻撃を繰り返されているうちにやられることになる。

「ピータン」に立て続けに攻撃された。回数からして、3体のようだ。

「こうげき」を選択しても、敵に命中させられるわけではない。「ぼうぎょ」でダメージを減らしながら、乗り切っていくしかない。「にげる」を選んだとしても、暗闇の中ではおそらく逃げられない。

「ピータン」の独壇場は続く。クスリはタコ殴りにされるのを、ただ耐えるしかない。一方的に殴られるのは、RPGのプレイヤーとして屈辱的なことといえた。

 HPも徐々に減らされているはず。「きずぐすり」で回復させなければ、命は尽きることになる。

 5ターンほど経過したときだった。室内に光がともされることとなった。どうしてこうなったのかということより、再開できる喜びが勝っていた。

 あれだけ攻撃を受け続けたにもかかわらず、HPは7しか減っていなかった。「ぼうぎょ」コマンドは、被ダメージを0にする効果を備えているのだと推測した。

 便利なステータスであることはわかったものの、頻繁に使用する機会はないと思われる。一人で冒険をしているため、敵に攻撃を仕掛けなければ撃破することはできない。ドMのように、やられっぱなしになってしまう。

 レベルアップの効果からか、ピータン3体を簡単に倒せた。最初の苦労は何だったのかと思うくらい、手ごたえはなかった。

 クスリは「こうげきりょく」、「しゅびりょく」、「すばやさ」、「まほうぼうぎょ」、「うん」のステータスを確認する。「こうげきりょく」、「しゅびりょく」は2、他のステータスは1ずつ上昇していた。レベルアップするごとに、ステータスは一定数上昇するシステムのようだ。RPGは武器、防具よりも、レベルを重視しているのかもしれない。



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