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第三話 V

「対象が別れました」
「何だと?」
「男の方は離れていきますが、女の方は留まったままです」

 路地裏で、作業着を着た男性数人が、何やら小声で話していた。

「気づかれたんでしょうか?」
「そんなわけあるか、これだけ離れているんだぞ」

 男たちは、対象と呼ぶ人物たちから、最低でも一〇〇メートルは距離をとった状態で追跡していた。現在もそれ以上の距離をとっている。

「何にせよ、一度に二人というのも無理がある。別れたのならこちらとしては好都合だ。もう少し様子を見て、頃合いを見て行くぞ」
「「はい」」

 男たちは、その後も一人に絞られた対象と距離を維持したまま追跡する。
 そして、日が傾き、少しづつ暗くなるにつれて、対象との距離を詰めていく。
 八〇メートル。
 五〇メートル。
 緊張が深まっていく。
 三〇メートル。
 一五メートル。
 そして、

「よし!行くぞ」

動き出そうとした、その時、


―――――何してんの


「「「!?」」」

後ろからの声に、全員が一斉に振り返った。
 そこには、黒いコートを着て、フードを目深に被った人物が立っていた。

「五人か。思ってた通りだな」

 黒の人物は小さく呟く。フードの奥に見える微かな眼は、ひどく冷たく光っていた。

「誰だ?いつからそこにいた?」

 先程までグループを仕切っていたリーダーと思しき男が、黒の人物に問う。

「そっくりそのままお返しするよ。まぁ、大方誘拐犯だろうがな」

 その言葉に、男たちは少し身をかがめ、すぐにでも動ける態勢をとった。
 まさに黒の人物の予想通り、彼らは、ここ最近の誘拐事件に加担している者たちだ。

「………なぜわかる」
「ずっと尾行されてたんだ。否が応にも予想はつく」

 その言葉に、男たちは息を飲む。「尾行されていた」ということは、この黒の人物が誰なのかを物語る、一つの証拠となっていた。

「お前、まさか………」

 男たちの間に、先程までとは、違う質の緊張が張り巡らされた。
 そんな中で、黒の人物から一番遠く、路地裏から抜けた通りに一番近い人物が、通りを覗こうと視線を投げる。


―――――おい


「ひっ!」

 耳元で聞こえた声に、思わず声が上ずってしまった。
 驚いた男は、慌てて黒の人物の方を見る。
 しかし、黒の人物は一歩も動いていない。
 周りの男たちは、急に声を出した男を何事かと見つめている。
 男の心拍数は急上昇し、気持ちの悪い汗が流れる。

「あいつに手を出してみろ。ただ死ぬだけじゃ済まないぞ」

 ゴクリと唾を飲み込む男たち。その音も聞こえそうな程、場は奇妙なぐらい静かだった。路地裏の外の音さえも聞こえない。

「ははっ」

 そんな中、グループのリーダーが沈黙を破る。

「君が一なのに対し、こちらは五だ。誰だか知らないが、我々も仕事中なんだ。邪魔するのなら、こちらも容赦しないぞ」
「安心しろ。もとより見逃すつもりはない」

 すると、リーダーが一つ息を吐く。

「あの女は後回しだ。先にこっちを片付けるぞ。何より、対象が向こうから来てくれたんだ。我々としては好都合だ」
「「はっ」」

 リーダーの言葉に、周りの連中は臨戦態勢をとる。

「プロを舐めるなよ」

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