第三話 IV
「ったく、お前が行こうって言ったんじゃねぇか」
「それはそうだけど、なんか居辛くなっちゃったんだもん」
「自業自得じゃねぇか」
「うるさいなーもう」
完全な八つ当たりである。
楓に言われたこともあり、このまま再び街を回ることはせず、二人は家路に着いた。
しかし、簡単に諦める、否、折れる天姫ではなかった。
「………なんでだよ。昨日言われたばっかじゃねぇか」
「だーかーらー、危ないことはしないって言ってるじゃん」
「その線引きが甘すぎんだろ」
何度目かはわからない肩への重みに、今日も紅白は抵抗することはなかった。
そして紅白と天姫は、次の日も、その次の日も、行方不明者が出たと思われる場所の周辺を回って聞き込みを続けたが、やはり、大した結果は得られない。
「なー、もういいだろー」
何日も歩き回れば、疲れるのもそうだろう。
「もう少し、もう少しだけ!」
そして疲れたのは何も紅白だけではない。天姫の顔にも疲労が見て取れたが、ここまでくると意地みたいなものだろう。自分の勝手で足を突っ込んで、さらには紅白までを巻き込んでおきながら、成果なしというのも、天姫としては納得がいかないらしい。
「あぁもう!これ以上回ったって何もわからん!いい加減諦めろ」
今までは絶対王政に遮られ、文句をぐっとこらえていたが、さすがの紅白も我慢の限界が来たようだ。そして天姫も、少し声を荒げる紅白に、気圧されていた。
「うぅ、………今日まで、今日で終わりにするから!」
天姫も申し訳なさに勝てなくなったのか、(譲歩してだが)紅白に従う姿勢を見せる。
「だーめーだ。もう終わりだ。ほら、帰るぞ」
しかし、紅白も譲らない。ここまで来たら、今日で終わりなので最後まで付き合ってあげてもいいような気がするが、それすら受け入れられないらしい。
「あと少しだからー!」
と、少し声を荒げながら、紅白に重力をかける天姫。いつの時代も実力至上主義というものは、被る側からすればイヤなことこの上ない。
しかし、
「残念、はずれ」
「え?」
そう何度も同じ手を食らう紅白ではない。天姫が重力をかけた位置は、紅白から微妙にずれていた。
「あー、能力使ったでしょー」
ずるいと言わんばかりに抗議する天姫だったが、
「おめーが言うな」
紅白の言い分は至極最もである。
「やるなら一人でやれ。俺はもう帰る」
「あ、ちょっと!」
天姫も引き下がるが、紅白の意志は固かった。渋る天姫を背に、紅白は手を振って一人帰っていく。
「………あとちょっとぐらい、いいじゃん」
小さくなっていく紅白の背中に、聞こえない声で愚痴を呟く。だからといって、紅白が戻ってくることはなかった。