Las unias de los animales
「………答えてもらう?はっ、何を言っているんですか?」
苦笑いでヒジリがそう答える。
「僕が殺したとは限らないじゃないですか。それとも………僕が犯人だと判別できる道具があると言いたいんですか!?」
「あるに決まっている。」
彼の質問に対して、確信を持って即答する。そこでキャメロンがこのように"脅迫した"。
「俺には【指紋採取・検出用】の道具がある。貴様の指紋とこの大鎚に付着している指紋の照合も可能だが、試してみるか。」
「……………ちっ」
ヒジリが頭をかいて、怒りを露わにする。
「あ"あ"!そうだよ!!俺が殺した!!俺がアイツを殺した!!」
「ほう、それは誰だ。」
「俺の"親友の友人"だ!!」
約三日前、村外にて。
ヒジリは"親友の友人"を呼び出した。
「どうしたんだ、ヒジリ?こんな所に呼び出して。しかも大鎚を持ち出してさ。狩りでも自慢すんのか?」
「……………」
「狩りをするんだったら、俺も武器を持ってきたらよかったな………」
「………おい。」
「ん?何だ?」
ヒジリが鬼の形相で彼を見る。その顔を見て、友人の頭に戦慄が奔る。
「そ、そんな顔すんなって!悪かったよ!武器を忘れて!!」
「違う。」
「えっ?じゃあ、何だよ?」
すると、ヒジリは友人の胸ぐらを掴んで牙を剥き、
「お前がやったんだよな?」
「な、何の話だy」
「お前が"あの"噂を流した!!そうだろッ!!」
ヒジリが友人の顔を自分の方へ近づかせて怒号を発する。
「ち、ちげえよ!!俺じゃねえ!!悪いのは俺じゃねえって!!」
「じゃあ誰が悪いんだよ!?」
さらに胸ぐらを引っ張る。
「アイツだよ!!ガトの野郎だよ!!」
「………は?嘘、だろ?」
驚きのあまり、胸ぐらを掴んだ手が開く。彼には信じ難い言葉だった。
何故なら………ガトは"ヒジリの親友"だったから。彼はガトのことを頼りになる兄とも思っていた。そんな優しい"兄貴"がこんな戦争を起こすほどの噂を流すわけがない。絶対何かの間違い、だと。
「嘘じゃねえよ!!アイツは終戦調印後、すぐに村から出ていった!!お前も覚えてるだろ!?」
そうだった。そうだった、そうだった、そうだった!!
何故だ、何故俺はそのことに気づかなかった!?ガトがこの村から何も言わずに去った!!
「おい!!ガトは何でこんなことをやったんだ!?」
「それは……………」
争いが始まる一週間前、アントニオはガトに呼ばれて彼の家に行った。自分の家からはとても近いが、別に毎日寄るわけではなかった。
そんなガトが急に家に招待してきた。俺に何の用かは分からない。アイツに関しては心の読めない獣人だ。
アントニオはガトの家の藁扉を上げる。
『来たぞ。』
『おー。』
ガトの、気の抜けた返事が聞こえた。どうやらリビングにはいないようだ。彼専用の部屋を覗いてみる。
そこには─────
『よぉ!』
赤茶髪黒眼で猫耳の青年が手招きで彼を呼ぶ。暑いのか、上は白のタンクトップ一枚であった。
『で?何の用だよ、ガト?』
『ん〜……………』
次の瞬間、ガトはありえない言葉を発する。
『嘘の噂を村中に流してくんねえか?』
『はあ?お前、何言ってんだよ?正気か?』
『ああ、そうなんだが?』
この超然とした態度のガトをアントニオは睨みつける。正直に言うと、ガトの趣味が分からない。結局何がしたいのか。
『お前バカなんじゃないの?何で流さないt』
ガトはアントニオの唇に人差し指をおく。
『"面白そうだから"に決まってんだろが。』
『!?』
ガトはチェシャ猫のように、目を細くしてほくそ笑む。
『お互い信頼し合っている異種族が"空っぽの事実"に引っかかるかどうか。どうだ?面白えだろ?』
『……………』
『お互いを憎み合う、当然のように暴言を吐き散らす、人種的特徴の差別化……………そしてオレはその様子を上から眺める。最高なもんだなあ!!』
ガトの不謹慎極まりない発言に怒りを覚え、アントニオは彼の手を振り払い、肩を強く掴んだ。
『お前………自分が何をしようとしているのか分かっているのか!?』
だが、それでもガトは飄々とした態度でアントニオを見つめる。
『あのなあー。』
ガトが彼の髪を引っ張り、目を見開いてこう言った。
『お前、オレの友達だろ?友達なら絶対にやってくれるんだよな?なあ?なあ!?』
怒鳴って脅迫する。髪の毛が千切れそうだ。頭皮からプチプチと髪が抜ける音がする。
『それともオレの言うことが聞けないわけ?なあ、聞けないならどんな手を使ってでもお前を………分かってんだろな?』
『分かったから話せって!!痛えよ!!』
『それでこそオレの友人だ。オレの言った通りに動けよ?』
「断れなかったんだよ!アイツ、裏切ったら殺すっていうから!!」
開いた口が塞がらなかった。ガトがアントニオを利用して、噂を流して、村を半崩壊まで追い込んだ。
そのせいでエルフ達全員が村を出ていって、獣人やヒトの半分は冒険者を目指したり浮浪旅団を形成した。残された種族は村を分離し、それぞれ別の名前で名乗った。
マニャーナは栄え、ノーチェは文化の遅れをとった。
「そうか………そうなのか。」
ヒジリが俯いてそう言う。確かにガトが責任を取らないといけないのだが、彼を説得して止めに入らなかったアントニオにも原因がある。
彼は横に捨てていた大鎚の取っ手を持って、それを振り上げる。
「お、おい………俺に何するつもりなんだ………」
「……………」
彼は友人の質問には無反応だった。何故なら───
「お前も"裏切り者"なんだよッ!!」
鎚を大きく横に振るが、友人の腹をかする。何度振ってもかするだけだ。それでも友人の腹から血が出ている。
「いだいよ………」
彼が腹に手を当てて、後ろに下がる。自分の死期を感じたのか、咄嗟に、
「だずげてくれええぇぇええええ!!!」
ヒジリから必死に逃げようとしても、走る反動で血がダラダラと出てくる。
「違う!!違うんですっで!!!ガトがやったんだから俺だけは許じでぐだざい!!」
「お前は共犯者だッ!!」
友人は尻もちをついて、畏怖の目でヒジリを見つめる。震え震えに眼球を縦横に回す。
「お願いだから、俺を殺さないでくれ!!」
「………最後の言葉はそれだけか。」
鎚を大きく振り上げて勢いをつけ、足から潰した。
「っいやあああああ"あああああああぁぁぁ!!!!」
次は腕、身体ごと吹き飛ぶ。首が折れる音がした。
次は頭、鈍い音と頭蓋骨が割れる音が響く。
無言で何度も友人の身体を潰す。潰す度にそれは人ではない何かの肉の塊になっていく。
「俺がもう一度、戦争前の村に戻す。」
大鎚を担いでその場を去った。
「裏切り者に制裁を下して何が悪いんだ!!」
ヒジリがその言葉を発した瞬間─────キャメロンは弾倉部分で彼を殴った。
「って、何すんだ!!」
「貴様の行なっていることが気に入らない、それだけだ。何故張本人を探さず、その真相を暴かなかった。何故その共犯者だけに聞いたのか。」
「はあ?」
「それに貴様は─────二度、親友に"扇動"されている。一度目は戦争時、二度目は友人を刺殺。どれもこれも貴様の親友が"計画的"に仕向けている。感情的に物事を考えているから騙されるのだ。」
「俺が……………ガトの思う通りに動いているって言いたいのかよ!!」
「そうだと言っているんだが。」
「クッ!もういい!!だったら………!!」
誰もこの二人を止めに入ろうとしない。今にも口火が切れそうである。
そして遂に、ヒジリが"とある"言葉を発した。
「【禁索概念詠唱】:─────」
キャメロンはすぐ様メディジェイトを構える。
(やはり俺と同じ……………)
「【猫人の暴挙】(インディグナション・フェリーノ)!!!!」
「禁索体(いのうしゃ)か!!」
突如として、ヒジリの両手が薄紫色のエフェクトを纏い始めた。
手が熊のように大きく、爪が徐々に伸び、犀の角のような鉤爪になる。
その爪を破壊すべく、キャメロンは素早く金属版を入れ替えた。
水晶弾を数発、ヒジリの両手に放つが───傷一つ付かない。いや………再生している!?
(まさか回復能力まであるとは………手こずるな!)
「おめえの銃弾が………効くわけねえだろうが!!」
ヒジリは面を上げて、キャメロンをきっと睨んだ。そして彼は突如として高く飛び、そのおぞましい両手を合わせて、穿孔機のような形にして─────それをキャメロンの方へ向ける。
「生きて返せると思うなよッ!!」
"毛を生やした岩がこちらに降ってくる"。その寸前にキャメロンは左へ"軽く"跳ねた。ヒジリが着地した地面が大きく陥没する。
「なっ!?お前………!!」
「だから言ったはずだ。"感情的に行動する"な、と。今の貴様が成している全ての行動はまさしく、貴様が友人に成したことなのだ。頭を冷やせ、愚か者。」
再度キャメロンが連続で発砲するも、またもや"あの"盾に防がれる。だがその時、ヒジリのクロップドパンツのポケットの隙間から一瞬、何かがキラリと赤く光った。
それに気をとられたせいか、
「どこを見てるんだぁ!!」
いつの間にか目の前にヒジリの顔があった。その爪がキャメロンの肌に触れるまで5cm。スローモーションでその先端が近づいてくる。
その刹那─────
「【防壁】(エスクード)ッ!!!!」
少女の大声とともにキャメロンの前に硝子のような大きな壁が現れた。
「!?」
あの冷静なキャメロンでも、綺麗な蒼眼を大きく見開く。不意に彼は後ろを振り向いた。
「魔術師を舐めないでくださいまし!!」
そこには両手を前にして、水色の魔法陣を展開している水蓮がいた。
「貴様、一体何を………」
「貴様じゃないですわ!!水蓮ですの!!」
それに、
「一人じゃ危ないですわよ!!」
その瞬間、防壁が粉々に破壊される。キャメロンは咄嗟にヒジリの頭上を越え、その間に銀板から"冷気を纏ったリチウム板"に再装填する。背後に着地し、その銃口をヒジリに向ける。
「"水蓮"はお人好しだな!!」
そう強く言い放って、撃鉄をすぐさま引く。それでもまたもやヒジリの異能力で防がれる。
(いくら攻撃してもキリがない……………!)
ヒジリが"いつ"、隙を見せるのか。先程と同様に隙を見せるのかどうか。ここからは回路(しんけい)を研ぎ澄まして、その瞬間を自分で作るしかない!!
(どうすればいい!?何か手は……………)
その時、またもやヒジリの攻撃が放たれる。身体を大きく横に捻って、その反動で大きな"熊の手"がうねり、爪の隙間を通して風が"人工的"に発生する。
風が徐々に威力を増していき、大きな竜巻になっていく。その大きさにキャメロンは戸惑いを見せる。
気を取られている間に、竜巻のない両端から斬撃が繰り出される。それに続けて竜巻もこちらに向かってくる。
「くっ………!!」
流石にこれは銃で防ぐことはできない。たとえ手足で受け止めたとしても、四肢が切り取られる可能性もある。
(だとしたらもう避けるしかないのか!しかしそれじゃあ、村人に攻撃が当たってしまう!一体どうしたらいいのか!?)
キャメロンは表情では冷静さを保っているが、事実、心の底では焦っている。
二つの斬撃がこちらに挟み撃ちで向かってくる。竜巻も徐々に大きくなり、その轟音は強くなる。
(さあ、どうする!もう時間がないのだ!!)
蒼色の細目でそれを見据えて、考えを絞り出そうとする。斬撃はあと二秒で彼の顔に傷を入れる………のだが、
「【反射】(レフレホ)!!!!」
水色の魔法陣がキャメロンの目の前で展開され、斬撃が跳ね返される。それは大きな竜巻の間を抜けて、ヒジリの左耳を半分切り落とす。そこからダラダラと血が溢れてくる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!っはあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
その痛みに耐えられないのか、ヒジリの口から上擦った声が上がる。
跳ね返ってきた斬撃で巨大な竜巻は消えてしまい、ヒジリの悶絶した表情を伺うことができる。
「だから危ないって言ったはずですの!!」
「しつこいぞ!水蓮!!お節介やき者が!!」
異能者同士の戦いに強引に介入する彼女に気に障ったのか、普段から冷静なキャメロンが珍しく憤怒した。
「な"っ!?酷いですわ!!せっかく協力しようと思いましたのに!!最低な男ですわね!貴方って人は!!」
彼の辛辣な言葉で堪忍袋の緒が切れたのか、長耳を激しく上下に振って、怒りを露わにする。
「俺がいつ貴様の恋人になったのか!?言い方にもほどがあるだろうが!!」
そんなくだらない言い争いの中で、
「おい、てめぇ!!てめぇ!!どうしてくれんだ!!俺の耳が………耳が……絶対に許さねえからなッ!!」
ヒジリが血眼でキャメロンに蹴りで襲いかかろうとする。だが、その攻撃も彼は軽く右へと受け流す。
「邪魔が入ったか。ならば………」
いつもの冷静さを取り戻したのか、"ある"考えが思い浮かんだ。
「水蓮!空中に"無作為に"防壁を張れ!!」
「いきなりなんですの!?」
「いいから早く張れ!!」
「もう………知らないですわよ!!」
水蓮が大きな魔法陣を展開し、空中に数十枚大きさの違う防壁を張る。
(よし、これで………)
"足場"を作り出すことができた。片足しか着地できないところもあるが、ないよりかはマシだ。これなら"銃の射撃範囲"が一層拡大する。
「おい、てめぇ!!聞いてんのか!?あ゛あ゛!?」
獣の大爪がキャメロンに切ってかかろうする。しかし、彼は高く跳んでそれを躱(かわ)し、右斜めの防壁に手をかける。その下でヒジリは地面に引っかかった片手を引っ張り出そうとしている。
「ん、ぐっ………!!と、取れねえ!!」
「悪いが貴様には………」
キャメロンが両足を防壁に着き、力を入れて、一番高いところに位置する巨大な防壁に跳躍する。片足ずつゆっくりとその"射撃位置"に着いて右足を前に出す。彼は"逆さま"に立っている。事実、"身体能力の限度を超えた"彼には"如何なる重力や物理法則"を無視できる。
「これで磔になってもらおうじゃないか。」
メディジェイトをヒジリの方に向けて左眼を閉じ、右眼で焦点を定める。両手で撃鉄に思いっきり力を入れる。
「【躊躇なき消去】:【凍結】(コンヘラミェント)!!!!」
銃口から冷気を纏った水晶体が二つ放たれる。"銃弾"は身動きが取れないヒジリの両手に当たり、両手の爪の末端から徐々に肩まで氷漬けされていく。
「あ゛あ゛あ゛!?ぜんっぜん動けねえ!!何だこれ!?」
この氷は常温であろうが高温であろうが溶けだすことは無い。外部からの攻撃でないと破壊することは不可能だ。
キャメロンがヒジリの目の前に着地し、彼の頭を掴んで自分の顔に近づけた。そして銃口を彼のこめかみに向けた。
「死ぬ覚悟はできたか、犯罪者。」
「くっ………ぐっ……………!!」
彼が撃鉄を引こうとした瞬間、
「お願い!!止めて!!」
後ろで少女の叫ぶ声が聞こえる。キャメロンが振り向くと、ナナが大粒の涙を流していた。
「お願い!!お願い………!止めて………!!お願い、だから………!」
「こんな犯罪者を庇うのか。見損なったな。」
更に強く、銃口を彼に突きつける。
「幼馴染みだから分かっているの!!全部!!幼い頃から一緒に過ごしているから………確かにヒジリ"君"に非はあるかもしれないけど……………それ以前に彼は私の友人なんです!!それに………まだ若いじゃないですか!!!!」
「はあ……」
キャメロンはナナの発言で呆れたのか、大きなため息をつく。ナナの方を振り向いて、彼女を睨みつけた。
「要するに貴様が言いたいのは"自分がヒジリの人生をやり直させるから殺すな"と。そうだな?」
「……………はい。」
「それは"友人の罪も背負う"覚悟で言っているのか。」
「友人を見捨てるほど"やわな"女の子じゃないので。」
ナナもキャメロンをキッと見据える。沈黙が風にのって村中を漂う。
「……………なるほど。」
彼はそう言って、メディジェイトを袖の中に仕舞った。そして水蓮達の方へ向かって歩きながら、こう言い残した。
「貴様の好きにしろ。」
そして彼女達を引き連れて、この村の門戸を開けた。
「アンタ、それでええんか?殺人犯したもんに制裁を下さんでも?」
「ヒジリの人生をやり直させるとあやつが言っておるのだから自己責任だ。俺達が口出しすることではない。」
「ですが、その根拠はあるんですの?」
「根拠はない。だが………」
ヒジリ達の方に振り向く。そこにはナナや他の村人に介助されて、家らしき建物に連れられて行く。
「あやつの人生を決めるのは他でもない、あやつらだ。"何も知らない"俺達ではないのだ。」
「確かに………キャメロンの……言う通りかも…………」
「他人を気にしている暇があるなら行くぞ。もうこの村に用はない。」
キャメロンはそう言って、"仲間"を引き連れてノーチェ村を立ち去った。
【ノーチェ村の外】
キャメロン達が村から出て行くのを"観賞"していた人物の影が草むらに映る。
茶色の尻尾を激しく振って、牙を剥き出しにして彼らを見ていた。
「あー面白くなってきたなあ!!」
顔は黒のパーカーのせいかハッキリ見えない。しかし、その"少し野太い"声は嬉しさを示しているようである。
「コイツらは"オレ達"のゲームの参加者だ。誰にも渡さねえからな。」
黒色の眼がキラリと輝いた。