次のペット候補
それが居たのは、外の世界でも随分と深い場所であった。つまりは外の世界の中心に近い場所。
周囲には何も無く、最も近い世界である管理者の管理している世界ですら離れている。
そんな場所に生まれたそれは筒状の身体をしており、途轍もなく長い。外見が近しい存在となると蛇だろうか。それにしては大きさが全く異なるので、説明的にはそれで合っていても、実際に目にすると近しいとさえ思わない。
黒に近い青色をした長い身体に、猛獣を思わせる凶暴そうな顔つき。生まれて間もないとは思えないほどに、身体をくねらせ悠々と外の世界を泳いでいる。
その姿はとても威厳に溢れていて、世界に創造した人々が見たら直ぐに神と崇めそうだと管理者は思った。しかし、管理者にとっては取るに足らない存在。とりあえず、話が出来るかどうか確かめてみる事にする。
管理者からは相手の顔の部分までは距離があるが、それでも声ではなく意思を伝えるだけならば問題ない。
相手が管理者の存在に気づいているのかどうか分からないので、まずは呼びかけてみる事にした。そうすると、ゆっくりとではあるが、大きく円を描くようにして相手は管理者の方へと顔を向ける。
相手は管理者に顔を向けると、何者かと意思を伝えてきた。傲慢な感じはあるが、そこには怯えなどは見られない。
しかしそれもそのはず、管理者はその強大過ぎる力を隠すのが非常に巧いので、普通は管理者を見ただけで強いとは思わなかった。なので、初見で管理者を恐れたラオーネの感知能力はずば抜けて高いという事だろう。ヴァーシャルも何となく感じていたようだが、それでもラオーネと比べると遥かに劣る。
魔蟲や魔魚などは弱い故にという事も考えられるが、もしかしたら独自の方法で管理者の強さを見抜いたのかもしれない。
その点、管理者の眼前に居る存在は駄目なようだ。管理者を侮っているのだろう事が容易に窺える。いや、これは己の強さに対する自信の表れだろうか? 相変わらず生まれながらに完成されたモノというのは面倒な性格をしていると、管理者は内心で呆れる。目の前の存在然り、創造主然り。ヴァーシャルも無駄にプライドが高かった気がするし。
例外と言うか、思考が柔軟だったのはラオーネぐらいだろう。ラオーネも傲慢な性格をしているが、最初から物事をわきまえてもいた。矜持を持つのはいいが、それに縛られても駄目なのだと。
そして、現状最も愚かしいのは、残念ながら創造主だろう。一度も敵対していないからか、既に創造主など遥かに超えている絶対者たる管理者に対してあまりにも傲慢が過ぎる。それとも、管理者が絶対の忠誠を誓っているとでも思っているのだろうか。その辺りを純粋な疑問として管理者はいつか訊いてみたいと思っていた。もっとも、それでも今のところは不満はあれど不便は無いので、創造主に牙を剥くつもりは微塵も無いのだが。
そんな事よりも、今は目の前の存在である。何者かと問われた管理者は、この世界に在る世界の二つを管理している者だと告げる。他に自己紹介の仕方も無かったのでしょうがないが、名乗った後にもう少し威厳があるような分かりやすい肩書きでもあった方がいいのだろうかと思った。
案の定、相手はより侮るような態度を見せる。こんな状態では交渉も難しそうだと判断した管理者は、相手が死なない程度に抑えて威圧してみた。
「――――――ッ!!!」
そうすると、相手は声にならない悲鳴を上げてあっさりと気を失ってしまった。油断していたためだろうが、その無様な姿を見て管理者は心配になってくる。あまりにも見掛け倒しすぎて不憫でならない。
可哀想なので、管理者はそのまま自身の創造した世界へと連れて行く事にする。あまりにもサイズの大きな存在ではあるが、世界に問題なく収容する事が出来た。それだけ創造した世界が大きくなっているという事だろう。
一先ず安堵したところで、ラオーネとヴァーシャルを呼ぶ。
やってきた二匹は、気を失っているそれを憐れむように見詰める。そうして並ぶ姿を見て、管理者は改めて今回の相手の大きさが規格外なのだと理解した。
近くに立つラオーネは一軒家ぐらいの大きさではあるが、ヴァーシャルは山ぐらいの大きさはある。だというのに、そんな二匹が小さく見えるぐらいに相手が大きかったのだから。管理者に至っては小人にでもなった気分だろう。なにせ相手の牙の一本よりも管理者の方が小さいぐらいだ。
ラオーネとヴァーシャルに現状を説明した後、管理者は相手を起こす事にした。のだが、いくら意識へと直接意思を伝えてみても起きる気配がない。ヴァーシャルの時はこれであっさりと起きたのだがと思い、管理者が次の方法を考えていると、ラオーネとヴァーシャルが相手を叩く。
それにどうしたのかと管理者が問うと、管理者が困っていたようなので叩き起こそうとしていたのだと説明してくれる。
納得した管理者は、二匹が叩いた場所を確認してみる。相手は加減した威圧で気を失うほどにひ弱なのだ、おそらく戦闘に向いた能力ではないのだろう。なので、それはやりすぎていないかという確認でもあった。
それで問題なさそうだと判断した管理者は、その強さを参考に自分も叩き起こしてみる事にする。
しっかりと加減をしてから、相手の身体を優しく叩く。ポンポンと管理者が軽く叩くと、相手は飛び上がるように起きる。そのうえで混乱しているのか、とぐろを巻くように身体を動かしていく。
その様子に、そんなに痛かっただろうかと管理者は首を傾げるも、叩いた身体には何の痕も無い。なので、しっかりと加減できていたはずなのだがと疑問に思う。同時に、もしかしたら相手の急所となる場所だったのかもしれないとも思った。
確かに管理者はもの凄く手加減していたし、本人としては優しく撫でたようなものであったのだが、しかしそれは表面上の事で、管理者本人としては無意識の内に相手の分厚い表皮を通り抜けて内部に衝撃を浸透させていたのだった。
しかも、運悪くその場所が核に近い場所だったために、相手としては心臓を直接叩かれたに等しい。いくら撫でるような威力だったとはいえ、それで痛くないはずもない。それどころか死にそうなぐらいの激痛である。
相手は痛みから逃げるように身体をうねらせるも、あまりの痛さに少し暴れたところでまた気絶してしまった。
再度気絶してしまった相手に、管理者は困ったように眉根を寄せる。
その一連の様子を傍から見ていて、相手に何が起こったのかを理解してしまったラオーネとヴァーシャルは、思わず小さく震えたのだった。