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14話 少女、引きこもる

「おーい、嬢ちゃん大丈夫か?」

「……」

 生きがいが1つ欠けた。取り返すなんて途方もないことだ。もし捨てられたら、本当に消えてなくなってしまうだろう。一番最悪なのはそれだ。

「…あいつ、何なの?」

「よっぽど好きだったんだろうな」

「いや、そういうことじゃなくてさ」

 何やら、鬼塚さんと女がコソコソ話しているけど、今の私にはどうでもいい。ショックが大きすぎて、魂がどこかに行っているようだ。

「……それは変だなあ」

「でしょ?」

 どこが変なのだと少しだけ内心思う。だが、やはりどうでもよすぎる。ほとんど気に留めていない。

「また買うことはできないのか?」

「できませんよ! もう手に入らないんですよ!?この世に2つとないんですから!」

「あー、悪かった。そうだったんだな……」

 どんなに話を聞いていなくても、フィギュアの話になれば反射的にすぐに飛びついた。完全に魂がどこかに行ったわけではないらしい。

「とりあえず、帰るぞ。……もしもし、開けてくれ」

 どこかに鬼塚が電話をすると、さっきと同じように空間が変化した。ということは、電話の相手はあの女性だろう。

「お前は来るなよ?」

「分かってるって。あんたらには勝てそうにないし」

 鬼塚さんに腕を引っ張られて、元いた部屋に戻ってきた。

「お疲れ様です。……どうしたんですか?」

「返ってこないんだとよ」

 事情を察したのか、同情するような表情に変化した。ずっと無表情だったけど、ちゃんと表情はあるようだ。

「沙月さんなら探してはくれるのでは? 見つかる可能性も高いとは思いますけど……」

「1週間の出張みたいなものだ。その間、連絡も取れないだろ」

「そういえば今日からでしたね」

 連絡が取れないと聞いて更にショックを受ける。そんなに大変な実験なのか。1週間で持ち主が変わってしまえば、また探すのが難しくなるだろう。

「とりあえず、セバスさんに頼みましょう」

「そうだな」

 勝手に話が進んでいるが、話に入ろうとも思わなかった。捨てられれば見つけることは不可能である。だって、消えて無くなるのだから。

「寝てきます……」

「お、おう……まだ昼間だけどな……」

 寝たら少しは気持ちが晴れると思い、自分の部屋に戻って即行で寝た。


 ◇  ◇  ◇  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「……」

 何日経ったか忘れた。私はあれからずっと部屋に引きこもっている。トイレやお風呂など以外で外に出ることは一切無くなった。寝るかパソコンやタブレットを使うかのどちらかである。そこまでになるか? と思う人もいるだろうが、私にはそれだけショックだったのだ。時間の経過とともに、今はマシにはなった。

「12月30日……か」

 タブレットを開いて、日付を確認する。思ったよりは引きこもっていなかった。引きこもると日付感覚も狂うらしい。いや、というよりは寝過ぎたせいか。

「……お酒か」

 何か飲み物が欲しいと思って手に取ったのは、クリスマスの時に貰ったスピリタスだった。ワインも近くに転がっているが、年齢的に飲めるわけがない。ここの国の法律がどうかは分からないけど。

自棄(やけ)になって飲むのもいいけど……」

 なんて口にはするけど決して飲まない。そもそもお酒の臭いが苦手だし、飲みたいとも思わない。瓶を見るだけで栓には手を近づけもしない。

「どこの世界も見た目は似たようなものなんだな」

 アニメや漫画では現実にあるものは同じか似たように描かれることがある。この世界でもスピリタスの瓶は元の世界でよく見るものとそこまで差はない。

「記念に取っておく? でも飲めるの4年後だし、割っても嫌だしな……」

 スピリタスはアニメで知ったから少々思い入れがある。だから取っておきたいももあるけど、多分この世界でも同じように一般人も手に入れられるだろう。もし割ったら、火事の危険や割れた瓶の処理などもある。それなら誰かに渡してしまうのもいいかもしれない。私なら転けたり事故って割ってしまいそうだし。……私が転んだ時のアルフさんの言動が目に浮かんできた。

「ふふっ」

 そんなどうでもいいことを考えていたら、少し笑えた。結構、気持ちが晴れてきたかもしれない。自分でも流石にこのままだと鬱になるんじゃないかとか思ったけど、これならなさそうだ。

「入っていいか?」

 ノックの音とともにそんな声が聞こえる。これは渚さんの声だろう。

「いいですよ」

「邪魔する。……大丈夫そうだな」

 渚さんは私が引きこもっている間も何度か顔を見にきてくれていた。渚さん以外にも知らない人を含めて、群青隊の人が食事を届けてたりしてくれた。

「分かります?」

「ああ。一時はどうなることかと思ったが……」

 とは言いつつも、私を信じていたようだ。安心したというよりはやっぱりな、というような表情だった。

「あの……フィギュア、見つかりましたか?」

「悪い。見つかっていない」

「そうですか……」

 やっぱり見つかっていないか。処分したかもしれないが、コレクターなら大事に保管しているかもしれない。後者なら一番有難い。後者の場合、紅の月のアジトが見つかっていないのだからフィギュアを見つけるのも至難の業だろう。

「思ったよりは落ち込んでないな」

「時間の経過と、後はどうでもいいこと考えたらマシになりました。ある意味、アルフさんのおかげですかね。最悪の場合、自分で作ればいいんですから。私の技術じゃ、あれと同じようなのを作るのに何年かかるか分かりませんが」

 そもそも、思考をネガティブな方向にしていたのがいけないのだ。だからあんな風になった。ポジティブなことを考えれば少しはマシになる。

「呼んだ? 俺のおかげだって?」

「別に呼んではないです」

 ノックもせずにドアからひょっこり現れたアルフさん。地獄耳か。ってか、何故ノックもせずに女子の部屋を開けるのだ。

「光ちゃんが復帰したし、ちょうどいいかも。セバスさんから連絡」

 その言葉に渚さんがハッとしたような顔をした。何か思い当たる節でもあるのだろうか。

「何があった」

「沙月ちゃんが危篤」

 深刻そうな顔であっさりとそう告げられた。
危篤? 何故? 未来視の能力を持っているのに? 頭から疑問が溢れるも、溢れすぎて口にできない。

「とりあえず、病院へ行こう。ああ、そんなジャージで行かない方がいいよ。外は寒いから、上着着てね」

 そういえば一日中ジャージだった。というか、引きこもっているから着替える必要がなかった。そもそも着替えることが面倒臭い。引きこもっている間、全く着替えていないわけではないよ? いくら私が面倒臭がりでも、流石にそれは不潔だわ。

「やっぱりこの辺は寒いんですね。私がいたところは暖かかったんで、ヒー……えっと、温かくなる下着的なものと、このジャージでも平気でしたね。まあ、暖冬の時の話ですけど」

 流石に向こうの世界の商品名でを言ってもこっちの人には分からないと思うので、そう説明する。

「まあ、行けば分かるよ。ちゃんと防寒してよ?」

「了解です」


 そう答えた私だが、後に後悔することを私はまだ知らない。

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