パルマ聖祭への道 その1
どうにか餅米の量産からの餅の製造に目処がつきつつあります。
この世界でも以前餅米モドキな物は見つけてはいたのですが、やはりモドキはモドキなんですよね……どこか餅米じゃなくて、やっぱり米に近い感じだよなぁ……ってな具合で、どう加工しても餅になりきらない感じだったんですよね。
で、そんな餅米を使っての餅つきをテトテ集落の皆さんが連日夕方実行してくださっていまして、いいペースで餅の在庫が増えている状態です。
餅をどういう形態で販売するかはまだ模索中なのですが……何しろこの世界に存在しない食べ物ですので、どうやって食べたらいいか、の部分も指導しなければなりませんからね。
……特に餅ですので、食べ方によっては非常に危険になる場合もありますので……元いた世界で一度喉に餅を詰まらせて、爺ちゃんに「まだ早いわ!」と言われてあの世の入り口から追い返された経験を持つ僕としては、やはり慎重にならざるを得ないわけです。
というわけで、出来上がった餅はとりあえず大福餅の原料として使用している次第です。
合わせて、イチゴもどきな果物を中に入れたイチゴ大福も絶賛作成中です。
本来であれば、これらのスイーツはヤルメキスが作成するのですが、今は僕が代役として作成しています。
ヤルメキスですが、パラランサ君との結婚式が数日後に迫っているもんですから
「今日はブラコンベの知り合いのところに挨拶回りに行こうと、おばちゃま思うのよ」
「今日はブブカコンベの知り合いのところに挨拶回りに行こうと、おばちゃま思うのよ」
と行った具合で、連日店の営業が終わるやいなやパラランサのお婆さんであり、彼の唯一の身内であるオルモーリのおばちゃまにあちこち連れ回されている次第なんですよ。
本来であれば、どの都市も馬車で半日から1日はかかる距離にあるんですけど、この挨拶回りには特別にスア製の転移ドアを使ってもらっている次第です。
何しろ、コンビニおもてなしの店員であり、実の娘のように思っているヤルメキスの結婚に伴っての挨拶回りですからね、それぐらいの協力は喜んでさせていただいている訳です、はい。
そんな中、いよいよパルマ聖祭ケーキの配布が始まりました。
予約分をお渡しするだけなので、そんなに急がなくてもなくなることはないのですが……どういうわけか今朝は開店前から店の前に大行列が出来ています。
「いやぁ、コンビニおもてなしの新作ケーキが楽しみ過ぎて、つい開店前にきちゃいました」
「おやおや、あなたもですか?実は私もなんですよ」
何か、そんな会話が行列のあちこちから聞こえてきます。
「こりゃ、このまま開店したらえらいことになるなぁ」
その行列を見ながら僕は思わず呟きました。
いえね、コンビニおもてなしって、朝一とお昼頃のお客さんが一番多いんですよ。
朝は、朝ご飯や、お昼に食べる弁当を早めに買い求めるお客さんで……
昼は昼で、お昼を買い求めるお客さんで、とにかく混雑するんです。
そこにこのパルマ聖祭ケーキを受け取りに来たお客さんが加わったら、そりゃもうカオスなんてもんじゃありません。
と、いうわけで……
「よし、パルマ聖祭ケーキのお渡しだけもう始めちゃおう」
そう決断したわけです。
朝ご飯もそこそこに、コンビニおもてなし本店内へと移動した僕は、パルマ聖祭ケーキを保存してある魔法袋を手に取ると、店の入り口前へと移動していきました。
「はい、ではパルマ聖祭ケーキのお渡しを開始します。パルマ聖祭ケーキの受け取りにこられた方は予約券を持って僕の前に並んでください」
僕がそう声を張り上げると、店の前に並んで待っていた皆さんは、一斉に僕の前に並び直していきました。
念のために、ルービアスに列の後方に立ってもらって
『この列はパルマ聖祭ケーキお渡しの列です *予約分のみ』
そう書いたプラカードを持って立ってもらいました。
案の定
「あ、弁当の列じゃないのね、これ」
そう言うお客さんもチラホラいたわけです。
そういったお客さん達にはもう一個列を設けまして、そっちに並んでもらいました。
ルービアスにも
「ケーキ受け取り以外の人はこっちに並ぶように声をかけてあげてね」
そうお願いしておきました。
「はいはいお任せくださいな」
そう返事をすると、ルービアスは手慣れた様子で
「はいはい、こっちはパルマ聖祭ケーキの列ですよ~、お弁当ご購入のお客様はあちらに並んでくださいね~開店までもう少しお待ちいただきます~」
と、にこやかな笑顔とともに声をあげています。
始めて出会った時は、僕やパラナミオをひどい目に遭わせようとしていた彼女ですけど、今ではコンビニおもてなしに欠かせない存在になっている次第です。
いや、ホント……あの時怒りにまかせてウルムナギの蒲焼きにしなくてよかったとつくづく思うわけです……と、パルマ聖祭ケーキをお客さんに渡しながらそんなことを考えていると、
「おおう!? な、なんでしょう、悪寒が!?」
とか言いながらルービアスが震え上がっていたわけです、はい。
で、ちょっと嫌な予感がしたので、
(スア、シャルンエッセンスに2号店の様子を早めに確認に行くように伝えてくれるかい)
そう頭の中で考えました……すると
(……わかった、よ)
そう、スアの思念波が僕の頭の中に流れ込んできました。
スアと僕は精神的につながっているそうなんですよね。
スアによると「深く愛し合っていると、そうなる、の」だそうなんですよ、スアみたいなすごい魔法使いとそういう仲になると……ってことらしいんですけどね。
なので、スアには僕の考えていることが筒抜けなんです。
逆に、スアの考えていることは僕にはわかりません……これは僕が思念波を使用することが出来ないからなんだそうです。
確かに、僕には魔力のマの字も備わっていませんからね。
元いた世界で読んでいたラノベとかだと、こういった異世界転移に巻き込まれた場合って、チートな能力を持つのが普通のはずなんですが、僕にはそんな能力は何一つ備わっていませんからね……ははは。
スアがいてくれたからこそ、こうしてコンビニおもてなしを起動にのせられたと思っています。
スアあってのコンビニおもてなしです。
スアあっての僕です。
スア、愛してるよ
……と、そんな事を考えていると、ブリリアンがすごい勢いで僕の側に駆けて来ました。
「店長殿、大変です! スア様が真っ赤な顔をしてぶっ倒れてしまわれました!」
そう言うブリリアンですが……まぁ、原因は僕がスアに感謝感激雨あられを急速169キロで投げ込みまくったからなんですけどね。
でも、嘘は言ってないわけだし、うん。
で、さらにしばらくすると、今度はシャルンエッセンスがすごい勢いで僕の側に駆けて来ました。
「お兄様の言う通りでしたわ!2号店の前にもパルマ聖祭ケーキを受け取りに来たお客様の行列が出来ておりましたの!」
そう言うと、シャルンエッセンスは2号店の予約分のケーキが詰まっている魔法袋を持って再度2号店に向かって駆けていきました。
……何か、忘年会以降、シャルンエッセンスは僕のことを「お兄様」と呼び出したのですが……なんでもシャルンエッセンスにとって僕は理想の兄像にぴったりらしいんですよね。
「必要な時にはビシッと叱ってくださり、頑張ったときは褒めてくださる……決して特別扱いはしないけれども、いつも見守っていてくださる……もう最高でございますの」
忘年会の時に、へべれけになりながらそう熱弁しまくったシャルンエッセンスは、その勢いのままに
「と言うわけで、今後私は店長様のことをお兄様と呼ばせていただきますわ。答えは聞いていませんの」
そう宣言して、今にいたるんです。
……まぁ、僕なんか兄と慕われるような人間じゃないんですけどねぇ……
なんてことを思っていましたら、2号店に向かったはずのシャルンエッセンスがすごい勢いでまた戻って来まして、
「ご謙遜なさらないでおくんなまし!貴方様は最高のお兄様でございますわ」
顔を真っ赤にしながらそう言ったシャルンエッセンスは、僕に向かって深々とお辞儀をしてから再度二号店に向かって走っていきました。
……おかしいな……シャルンエッセンスとは精神的にはつながってないはずなんだけど……
そんな事がありながらも、どうにか開店時間までには店の前に並んでいた方々へのケーキ渡しが終了しました。
まだ全部は取りにはこられていませんが、今朝だけで本店の予約分の8割近くは渡し終わることが出来ました。
あと2割くらいなら営業時間中に取りにこられてもどうにか出来ると思います。
一度店内に戻って一息ついていると、スアが薬草茶を持ってやってきました。
「お疲れ様、ね」
スアはニッコリ笑いながら僕に薬草茶の入ったカップを渡してくれました。
で、同じ物をルービアスにも渡したスアは、僕の横にちょこんと座ると
「……旦那様、愛してる」
そう言いながら僕にもたれかかってきました。
すると、僕の正面で薬草茶を飲んでいたルービアスが、気を聞かせて向こうを向いてくれました。
それを確認したスアは、僕に向かって目を閉じました。
スアの思考は読めない僕ですが、今、スアが何を求めているかはよくわかります。
僕は、スアにゆっくり口づけていきました。
今日もラブラブな僕とスアです。