ぺったんぺったん その2
というわけで、テトテ集落で始まった餅つきですが、あっと言う間にテトテ集落の夕方の風物詩になりました。
朝、プラントの木から採取した餅米の実をおもてなし商会テトテ集落店へ納入
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テトテ集落にある脱穀機を使用して脱穀
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おもてなし商会テトテ集落店を併設しているリンボアさん自宅で餅米を水にひたす
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夕方、農作業などを終えて戻って来た集落のお爺さん方がペッタンペッタン
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村のお婆さん方総出で丸餅に加工
出来上がったお餅は、すぐに魔法袋に入れていますので出来たて状態のまま保存されています。
年明けには餅つき実演しながら販売するのもいいかなと思いつつ、現在どういった状態で販売するか検討中です。
何しろ、餅どころか餅米すら存在していなかったわけです。
餅を食べるという習慣がない世界に、どうやってこの餅を売り込んでいくか……う~ん、ちょっと思案中です。
で、作業工程の途中……
リンボアさん家で餅米を水に浸した後、いくらかの餅米を別工程に移しています。
水切りした餅米に水を加えながら挽いていきまして、出てきた液体にあれこれ手を加えた後、天日で干して……はい、白玉粉を作成しています。
実際問題として、僕自身、元いた世界でも餅米から白玉粉を作成した経験はありません。
そんな事しなくても、すぐに手に入っていましたからね。
個人的に所有している食品図鑑に書かれていた通りを実践しているわけなんですけど……果たしてこれでうまく出来ますかどうか……
ちなみに、テトテ集落の皆さんが、籾殻状態の餅米を使って餅米を田んぼでつくってしまおうともされています。
これが上手くいけば、テトテ集落の新しい特産品が出来るかもしれません。
「コンビニおもてなしさんのおかげで、テトテ集落が忙しくなってきたのぉ」
「何十年ぶりかしらね、集落がこんなに活気づくの」
集落の皆さんも、笑顔で作業をしてくださっています。
本当は、テトテ集落である程度実験してみて、うまくいきそうだったらスアの使い魔の森で作業を引き継いでもらおうと思っていたのですが、集落の長のネンドロさんも
「タクラ店長さん、このお仕事はぜひ我がテトテ集落でさせていただきたいですにゃあ」
気合い満々の笑顔でそう言われていますので、その方向に軌道修正しようと思っています。
◇◇
で、最近気になっていたのですが……
「ネンドロさん、集落が大きくなっていませんか?」
そうなんです。
どう見ても、集落が一回り大きくなっているんです。
集落の中には、お見かけしたことがない方の姿も多く見かけるようになっていますし……
すると、ネンドロさんは嬉しそうに微笑みました。
「はいですにゃあ。実は、周辺の亜人達がテトテ集落に移住してきておりますにゃあ。それで先日区画を一回り広げましたにゃあ」
ネンドロさんの話によりますと……
最近、テトテ集落の皆さんが農作業だけではなく、森の中で果物の採取や周辺の街道整備などを行いまくっていてですね、しかもみんなが笑顔で楽しそうだ、と……
「……あの消滅を待つだけだった限界集落がねぇ……」
そんな光景をみるにつけ、テトテ集落周辺にお住まいだった亜人の皆さんが徐々にテトテ集落へと集まってきているそうなんですよ。
中には、若い夫婦の亜人さんもいたりして、
「テトテ集落では何十年ぶりかの赤ちゃん誕生なんてことに成る日も、そう遠くない気がしてますにゃあ」
ネンドロさんはそう言いながら嬉しそうに微笑んでいました。
そんな事をネンドロさんと話していると、周囲に集落の皆さんがわらわらと集まってきました。
「タクラ店長、いつもありがとな」
「あんたが家族を連れて来てくれるようになってからだよ、この集落が元気になったのわよ」
皆さん、口々にそう言いながら
「これ、ウチの畑で取れたジャルガイモだ、まぁもってけ」
「これももっていきなって、遠慮すんじゃないわよ」
「あと、これも」
と、どんどん僕にあれこれお土産を持たせてくれましてですね……この日、転移ドアをくぐってガタコンベの巨木の家に帰った僕は、お土産のせいで前が見えないほどになっていました。
魔法袋に入れて持って帰ることも考えたんですけど、そうしたら
「まだ手が空いてるじゃない、じゃこれも……」
ってなりかねないと思い、あえて両手で抱えた次第です。
で、そんなお土産を片付けていると、スアが僕の横に歩みよってきました。
「……あのね、使い魔の森のみんなも、すごく喜んでる、の」
スアはそう言ってニッコリ笑いました。
スアの使い魔達って、使い魔と言いながらも、スアが色んな理由で絶滅しそうになっていた亜人や魔獣達を保護して自分の作り出した小規模な異世界の中で暮らさせてあげていたわけで、特に何かを頼むことなんてなかったんですよね。
それが、最近はコンビニおもてなしで販売するための商品作成の手伝いをあれこれしてもらっているもんですから、使い魔の森のみんなはそれが嬉しくて仕方がないそうです。
「……何かお願いした方が……って思った事はあったの、よ……でも、何をお願いしたらいいかわかんなくて……」
そう言って、少し困惑気味な表情を浮かべるスア。
僕は、そんなスアの頭を優しく撫でました。
「僕の方の仕事を手伝ってもらってさ、スアの使い魔の森の皆も、僕も喜んでいるわけだし、それでいいんじゃない? スアと僕は家族なんだしさ」
僕がそう言うと、スアはすごく嬉しそうに微笑みました。
「……家族、スキ。そう言ってくれる旦那様、大好き、よ」
そう言って、僕に抱きついてくるスア。
で、そのまま上目遣いに僕を見上げてそっと目を閉じます。
はい、いつものおねだりです。
僕は、そんなスアに口づけていきました。
◇◇
テトテ集落で出来上がってきているお餅ですが……
すでに餡子はありますので、この2つを組み合わせて大福餅を作ることにしました。
「ほうほう、こんなスイーツもあるのでごじゃりまするなぁ」
試作品を作っている僕の手順を見ながら、コンビニおもてなし本店スイーツ担当のヤルメキスも目を丸くしていました。
で、出来上がった試作品を早速、みんなに食べてもらったのですが、
「あらまぁ、上品なお味ですわねぇ。温泉饅頭と同じ感じかと思っておりましたのに、随分違いますわ」
魔王ビナスさんが言う通り、やっぱ饅頭と大福は相当違います。
このもっちり感に餡子の甘さがねっとり交わるのがなんとも言えないわけですよ。
甘い匂いに釣られて、試食に参戦していたパラナミオも
「パパ!これすごく美味しいです!パラナミオ、これ好きです」
そう言って満面の笑みを浮かべていました。
で、餅と餡子の二役が揃って大福餅です。
ここに、イチゴもどきな果物を一役加える事によりましてイチゴ大福の完成です。
で、早速これもパラナミオに試食してもらったところ
「んん!?」
パラナミオってば、食べるのに夢中になってしばらく言葉を発する事が出来ませんでした。
どうも、イチゴもどきの部分と餡子を一緒に食べたいがために、イチゴ大福を一口で頬張ったらしく、頬をいっぱいに膨らませたまま、モゴモゴしているわけです、はい。
なんか、その姿がまた可愛らしいわけですよ。
その横で魔王ビナスさんも感動しきりな様子です。
「先ほどの餡子だけの物も美味しゅうございましたけれども、こちらの方は一段上でございますわ。この果物の酸味がほどよく餡子と混ざり合っておりまして、いい感じですわねぇ」
そう言いながら、早くも試作品3個目に手を出しています。
ってか、ヤルメキスが静かだなと思ったらパラナミオ同様に、口の中に一気に突っ込んだもんだから、かみ切れなくてモゴモゴしている様子です。
とりあえず、製品版を作成する際にはかみ切りやすいようにもう一回り小さく仕上げようと思います。