ぺったんぺったん その1
しかし、昨日の忘年会はホントに盛り上がりました。
スアの使い魔の森のみんなが酒盛りを始めたのを合図とばかりに昼前から始まった忘年会ですが、その勢いのまま、みんなで夜中までみんなワイワイ楽しい時間を過ごしていきました。
それでも飲み足りないというか、騒ぎ足りないメンバーは、そのままおもてなし酒場へ移動してそこで2次会をスタートさせました。
……で、今僕はコンビニおもてなし本店の厨房で今日販売する弁当を作成しているのですが、おもてなし酒場の方からいまだに元気な笑い声が聞こえてきていますので、おそらく2次会はまだ続いている模様です……ははは。
気がつけば、いつの間にか魔女魔法出版の社長であり、スアのお母さんであり、僕の義母にあたるリテールさんが、スアと僕の担当のダンダリンダと一緒に参戦していまして、
「婿様!飲んでますかぁ」
って、へべれけ状態のリテールさんが僕の口にスアビールを突っ込もうとしてきたり、ダンダリンダがそれを手伝わんとして、両手にスアビールを持って僕ににじりとってきたりと……
エレをはじめとした3号店の木人形チームにいたっては、いつの間にか接客の手伝いにまわって、酌をしたり料理を運んだりしていたんですよ。
泥酔したシャルンエッセンスにいたっては
「お兄様ぁ、シャルンはたのしゅうございますぅ、これもお兄様のおかげですぅ」
僕に抱きついて、大声でそう言いながらおいおい泣き始めますし、シルメール達シャルンエッセンスの元メイド達もそれにもらい泣きしながら酒を飲みまくっていたり……
まぁもぅ、とにかくカオスな光景が随所で繰り広げられていた次第です。
でもまぁ、みんな思い思いに楽しんでくれていたみたいだし、やってよかったなと思った次第です。
この調子で、来年の今頃に2回目のコンビニおもてなし忘年会を実施出来るといいなぁ、って、心から思うわけです、はい。
◇◇
こうして無事忘年会を終えたコンビニおもてなしですが……まだ一部続いていますが……今週末にはパラランサとヤルメキスの結婚式が控えています。
式は、パラナミオが通っている学校を運営している教会で行いますが、その披露宴をおもてなし酒場が請け負っていますので、しっかりやってあげないとな、と思っている次第です。
それが終われば、すぐに年末がやってくるわけです。
そんな中、僕はある物が準備出来ないかと思って倉庫の在庫を漁っていました。
いえね……
年末を越えて年始になると、やっぱ食べたくなるんですよ……おもち。
この世界で、米によく似た植物は見つけているのですが、餅米らしい品物はいまだに見つけることが出来ていないんですよね。
以前、餅米もどきっぽい物を見つけたこともあったんですけど、やっぱもどきだけあって、どこか違う品物しか出来上がらなかったんですよ。
というわけで、餅米がコンビニおもてなしの在庫の中に残っていないかな、と思って探していたのですが……予想通りと言いますか、案の定出てきました、未開封の餅米2kgパックです。
すでに1年以上前の品ですが、このまま使用するわけではありませんので問題ないでしょう。
この発見した餅米を、スア製のプラントの木で増殖させてみたところ、翌朝無事に餅米が詰まった餅米の実が完成しました。
ホント、物さえあれば増やすことが可能な、このプラント魔法ってすごいなと思うわけです、はい。
で、この取れたての餅米を脱穀し……この世界ってば、米はあって脱穀機も存在していましたので、それを所有していたテトテ集落の農家のお爺さんにお願いしてそれを使わせてもらいました。
「パラナミオちゃんにはいつも和みの時間をもらっとるでなぁ」
お爺さんはそう言うと嬉しそうに笑ってくれています。
で、そんなお爺さんと雑談しながら全ての餅米を脱穀し終えた僕は、それを水にひたします。
で、半日近く水につけたその餅米を今度は蒸し器で蒸していきます。
この水につける作業と蒸し作業は、おもてなし商会テトテ集落店を運営してくれていますリンボアさんの家でさせてもらいました。
で、その作業をしている間に、僕は餅米と一緒に発見していたある物をテトテ集落へ持ってきました。
杵と臼です。
……もう一度いいます。
杵と臼です。
……はい、餅米ってば、倉庫の奥に埋もれていたこの臼の中に入れられていたんですよね。
そう言えば、爺ちゃんの代だった頃のコンビニおもてなしでは、毎年正月には店頭で餅つきをして、つきたての餅をお客様に無料配布していたと聞いたことがあります。
と、いうわけで……
蒸し上がった餅米と、この杵と臼を使用しましてですね、早速餅つきをしてみようかと思った次第なのですが……ここでちょっと困った問題が……
餅つきをするとなると、餅をつく役と餅をかえす役が必要になります。
で、そのどちらかをテトテ集落の皆さんにお願いしようと思ったのですが
「つく?……かえす?……」
僕の説明を聞いたテトテ集落の皆さんってば、一様に困惑の表情を浮かべながら腕組みして首をかしげてしまったんですよね。
まぁ、餅米が存在していないわけですし、そりゃ見たことも聞いたことも……当然やったこともない餅つきの事を説明してもピンとくるはずがありません。
で、困惑しきりなテトテ集落の皆さんを前にして、困り果てていた僕なんですが、そんな僕の横にいつの間にかスアが歩み寄って来ていました。
……とはいえ、スアもテトテ集落の皆さんと同じで餅つきは未体験なんだから説明しても理解出来ないんじゃあ……そんなことを思っていると、スアは
「……旦那様、想像してみて、ね」
そう言いました。
言われるがままに、餅つきの光景を思い出していく僕……
途中、なぜか
「なぁにぃ~、やっちまったなぁ」
なんていうお笑い芸人の事を思い出したりしながらも、頭の中で餅つきの光景を思い浮かべていきました。
そんな僕の横で、フンフンと頷いていたスアですが、
「……うん、やろう、ね」
そう言うと、臼の横へと移動していって、そこにちょこんと座りました。
……え? スアが餅をかえすの?
結構重労働だと思うんだけど……
そんなことを考えている僕の前で、スアは
「……まかせて」
そう言いながらドヤ顔をしています。
スアがそこまで言うのなら、と思い、僕は杵を手に持って構えていきました。
「……旦那様、あれはしない、の?」
「あれ?」
「……「男は黙って」……とか言ってた……」
「……あぁ、ごめん。あれは餅つきとはあんまり関係ないんだ」
そんな会話をひとしきり交わした後、僕は杵を臼の中に入れてある蒸し上がった餅米に向かって振り下ろしていきました。
……で
その杵を僕が持ち上げると、スアが絶妙なタイミングで手を伸ばし、餅米をかえしてまとめていきます。
……僕の位置からだと、スアの手が臼の中に入っていないのが丸見えです。
そう、スアは魔法でもち米をかえしているわけです。
ですが、テトテ集落の皆さんに見せるために、その動きをまねているわけです。
僕の位置からは、臼に手を入れていないのが丸見えですけど、周囲でこの光景を見つめているテトテ集落の皆さんの方からは、スアが臼の中に手を突っ込んでいるように見えているらしく、
「なるほど、ああするのか」
「あれが『かえし』なんだな」
「『つく』というのは、ああやるのか」
と、僕とスアが息のあったコンビプレーで餅つきをしている光景を感心しながら見つめていました。
で、ある程度しますと
「店長さん、やり方がわかったぞい、どれワシらにもやらせてくれ」
そう言って、交代を申し出てくるお爺さん達が現れました。
で、このお爺さん達……すごいです。
日々農作業で体を鍛えられているだけあって、杵を振り下ろす早さが僕とは段違いです。
終盤の僕は、それでなくてもかなりヘロヘロになっていましたからね……ははは。
で、かえし役をしているお婆さんも、お爺さん同様に農作業で鍛えられているらしく、すごい勢いでかえし作業を行っています。
「スアのおかげで、テトテ集落の皆さんにすぐに理解してもらえて助かったよ……餅つきなんて僕も始めてやったから、もう腰が痛くてさ」
そう言いながら苦笑する僕だったんですが、その言葉を聞いたスアがですね、なんか真っ青になっています。
「……大丈夫?動ける?」
そう言いながら僕の腰に手をあてて、回復魔法をかけてくれるスアなんですが、若干パニクっていたスアってば
「……今晩大丈夫?動ける?動かせる?子作り出来る?」
と、どさくさ紛れにすごい事を言い出す始末でして……
で、それを聞いたテトテ集落の皆さんが
「奥さん、気合い満々だなぁ」
「アツアツで羨ましいわねぇ」
と、冷やかされまくった僕達だったわけです、はい。