コンビニおもてなしの忘年会 その3
スアの使い魔の森のみんなは、海岸に到着するやいなやスアビールを手にとり
「みんなお疲れ~」
「かんぱ~い」
と言い合いながら酒盛りを開始してしまいました。
サイクロプスや龍族などの体が大きいみんなは、自分で持って来たスアビール入りの樽を手に持ち、それを豪快に飲み干しています。
まだ忘年会は始まってないんですけど、まぁみんな楽しそうですし、それを止めるのは無粋でしょう。
そう思った僕は、酒盛りが始まっているスアの使い魔の森のみんなの輪の中へと入っていきました。
「おぉ、スア様の旦那様」
「お疲れ様です、スア様の旦那様」
「どうぞお飲みください、スア様の旦那様」
スアと契約している使い魔の皆からすれば、やっぱり僕は『スアの旦那』ってことになるわけですけど、みんなはスアのおかげで命を救われているようなものですからね、そう呼んでもらえるのはむしろ誇らしい気がするわけです、はい。
そんな僕のところに、早くもへべれけに酔っ払っているヴィヴィランテスが千鳥足で歩み寄って来たかと思うと
「よぉ、スア様の下僕、飲んでるかぁ」
と言いながら僕の肩を、蹄の足でガシガシと蹴りつけてきました。
まったく、悪酔いしてるなぁ、と思った僕ですが、ヴィヴィランテスには特に世話になっているわけですし
「ヴィヴィランテス、いつもありがとう、さぁ飲んで飲んで」
そう言いながら、近くにあったスアビールの瓶を手に取り、ヴィヴィランテスに飲ませてあげようとしたのですが、振り向くとヴィヴィランテスの姿が忽然と消えていました。
代わりに、そこにはスアが立っていまして、
「……旦那様を、何下僕扱いしてるの、よ……」
明らかに怒った様子で右手を前に突き出していました。
その数秒後、海の方からヴィヴィランテスの悲鳴とともに、
どっぽ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん
と、海に何かが落下した音が派手に聞こえて来たのですが……うん、まぁ、気にしないことにします、はい。
で、使い魔の森の皆は、スアが来たことでさらにヒートアップしていきました。
ワイワイ酒を酌み交わしながら
「スア様がいなかったら、私共の一族は……」
と、泣き上戸になったり
「スア様、飲んでますかぁ!お注ぎしますよぉ、あはは」
と、笑い上戸になったり
「スア様ぁ、聞いてくださいよぉ、雪巨人のシアンガンタがすぐに私のお尻をですねぇ……」
と、絡み上戸になったり
みんなそれぞれに、酒を満喫している様子です。
まぁでも、みんなすごく楽しそうですし、ま、たまにはこういうのも良いかな、と思った次第です。
で、コンビニおもてなしの面々も続々と海岸に到着しているのですが、そんな皆さんはスアの使い魔の森の皆さんが楽しく酒盛りしているのを見るやいなや
「あれ、もう酒盛り始まってる?」
「おっと遅れちゃいかん」
そう言いながら、その輪に加わっていってます。
よく見ると、その巨大な使い魔の皆さんの飲み会の輪の中には
リヴァイアサン化しているファラさんや、サラマンダー化しているサラさんの姿もありました。
……ってか、サラさんってば、まだいたんだ。
僕がそんな事を思っていると、そんな僕の視線に気付いたらしいサラさんは一度人型へと戻ると、
「うむ、一度リバティコンベに戻ろうとしたのだが、道に迷ってな……それでこの都市に戻って見たら宴会だと言うではないか。これは参加させてもらわねば、と思ったのだよ」
そう言ってニッコリ笑うサラさん……うん、サラさんにはパラナミオのことでお世話になっているので別に参加してもらう事には問題ないんですけど……
サラさん、サラマンダー状態から人型に戻ったら素っ裸なんですから……その姿でニカッと笑われたら、どこのAVですかって思ってしまうわけですよ。
「あぁ、そうか……そういえば全裸だったな」
サラさんってば、はっはっはと笑いながら再びサラマンダー化していきました。
なんというか、大らかな方と言いますか、僕が男として見られていないと言いますか……まぁ、セーテンのように露骨に『ダーリン、アタシの裸で欲情してほしいキ』と言いながら風呂に乱入してこられるよりはマシかと思ったりしたわけです、はい。
で、気がつけば、海岸で大規模な飲み会が始まっていたのですが、それに気付いた宿の店主が僕のところに駆けてきました。
「店長さん、もう始まるようでしたら料理を海岸にお出ししましょうか?」
「あ、そうしてもらえると助かります」
「了解しました、では早速に」
宿の店主はニッコリ笑ってそう言うと、一度宿へと戻って行きました。
程なくして、宿の中から使用人らしいケットシー達が料理ののった大皿をどんどん運びだしていました。
それを見たみんなは
「おぉ!料理が来ました!」
「よっし、もう一回乾杯だぁ」
そう言いながら、楽しそうに笑っています。
思いがけず始まってしまったコンビニおもてなしの忘年会ですけど、まぁ皆笑顔で楽しそうですし、このまま満喫してもらおう……そう僕が思っていると、
「よし、せっかくです!タクラ店長を胴上げしましょう」
そうブリリアンが言い出したのをきっかけに、いきなり僕の周囲にみんなが集まってきたかと思うと
「タクラ店長ばんざ~い!」
「コンビニおもてなしばんざ~い!」
そう言いながら、僕を高々と胴上げし始めました。
なんかもう、好きにしてください状態で、されるがままにしていた僕なんですけど……気がつくと胴上げの輪の中にサイクロプスとか龍とか、大物の皆さんまで加わって来ていましてですね、
「よし、もっと高くあげるぞ」
サイクロプスの1人の声を合図に、僕を支えたサイクロプスや龍族の皆さんは、
「それわっしょ~い!」
そう声をはりあげると、僕の体を一気に上空へ投げ上げていきました。
そのあまりにも、な、加速度を前にして、僕は思わず顔を引きつらせていきまいた。
……だって……まさか自分の体が雲を突き抜けてさらにその上にまであがるなんて、夢にも思っていませんでしたもの……ってか、これ、マジでちゃんと受け止めてもらえるんでしょうね?……僕、救命具なんか持ってませんし……っていうか、気のせいか僕の周囲の空気が何か薄くなってきた気が……
とまぁ、危うく成層圏を突破しそうな勢いで上昇し続けていた僕に気がついたスアが、魔法で地上に戻してくれたおかげで事なきを得たわけです、はい。
スアってば、すっごい慌てたみたいで、僕に抱きつきながら、
「……大丈夫?おっぱい揉む?」
なんか意味不明な事を言い出す始末ですし、そもそもスアのストーンボディに揉む余地など
そんな事を考えた次の瞬間、僕の体は先ほどよりも高く舞い上がっていきました……
とりあえず、パルマも青かった気がします。
◇◇
恥ずかしながら、無事生還した、どーもタクラです。
そんな僕を交えて、海岸では盛大な酒盛りが進行中です。
気がつけば、本来の忘年会の開始時間になっていたのですが、そのため海岸には参加予定だったみんながほぼ全員集結していました。
すでにへべれけに酔っ払っているシャルンエッセンスが、
「お兄様、飲んでいらっしゃいますかぁ……ひっく」
真っ赤な顔をしながらしなだれかかってきたり、釣りから戻って来たセーテンが
「ダーリン、アタシのお酌も受けてほしいキ」
と言いながら、酒を口いっぱいに頬張って、それを口移しで飲ませようとしたり……直後に、スアに海に放り込まれてましたが……
と、まぁ、みんな早くも最高潮の盛り上がりを見せている次第です。
そんな皆を見回しながら、パラナミオが笑顔を浮かべながら僕の側に寄ってきました。
「パパ、みんな楽しそうですね。パラナミオもすごく楽しいです」
そう言いながら、パラナミオは僕に抱きついて来ました。
「……パパとママとリョータとみんなに会えて、すごく楽しいです……エヘヘ」
頬を赤く染めながら笑うパラナミオ。
その笑顔、まさに天使です、はい。
そんなパラナミオの頭を撫でながら、僕もスアやパラナミオ、それにリョータと家族になれたこと、
そして、目の前で楽しそうに酒盛りをしているみんなと出会えた事の喜びを噛みしめていました。
で、パラナミオってば、最近のマイブームよろしく、目を閉じて唇を突き出しています。
で、僕もまたいつものように、その唇に自分の頬を軽く押し当てました。
パラナミオは、僕の首に抱きつくと、
「パパ大好きです」
そう言って、ニッコリ笑っていました。
うん……今、確信しました。
今の僕はパラナミオのためなら魔王でも倒せ……
「店長様、呼びました?」
「あ、いえ、魔王ビナスさん、なんでもないです、マジ、なんでもないです……」
なぜここで、バイトの魔王ビナスさんが突っ込み入れてくるかなぁ……今、すごく良いこと言いかけたのに……