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蝸牛人のサンバ ~結婚するって本当でごじゃりますよ その1

 ど、どうにかパルマ聖祭ケーキの追加分をさばききった、どーもタクラです。

 いやもう、ホントすごかったです。
 追加を作っても作っても終わりが見えて来ませんでしたからね。
 とにかく、ガタコンベとブラコンベでは『パルマ聖祭ケーキが追加購入出来る』って噂が都市中を駆け巡ったもんですから、すごい数のお客様が押し寄せてきたわけです。

 でも、逆を言えば……
 この世界では全然馴染みがなかった、このクリスマスケーキならぬパルマ聖祭ケーキが、これだけの短期間で皆さんの中に浸透したと言えなくもないわけです。
 純粋にケーキが美味しかったってのももちろんあると思いますけど、何より一番嬉しかったのは親御さんと一緒に買いに来ていた小さな子供さんが
「このケーキとっても美味しかったの!だからもう1個買ってってママにおねだりしたの」
 って、笑顔で言ってくれたことでした。
 しかも、かなりの数。
 やっぱ、子供の笑顔ってどこの世界でもいいもんですね。

 どうにか本店の営業を終えた僕ですが、すぐさま転移ドアをくぐってテトテ集落へ移動しました。

 すでに学校が冬のお休みで、ケーキ渡しを手伝ってくれていたパラナミオも一緒です。
 転移ドアの出口であるおもてなし商会テトテ集落店の前には、ケーキを予約してくださっているテトテ集落の皆さん……まぁ、ほぼ集落民の方全員なんですけどね……が、列を成しておられました。
 で、皆さん、僕と一緒に満面の笑顔のパラナミオがやって来たのに気がつくと、
「ぱ、ぱ、ぱ、パラナミオちゃんじゃあ!」
「パラナミオちゃんがおるぞぉ」
「はぁ、ありがたやありがたや……」
 と、まぁ、歓声があがるやら拝む人が出るやらとカオスな状態になっていったわけです、はい。

 で、そんな中、

「予約ありがとうございました!」
 パラナミオが満面の笑顔でケーキを1人1人に手渡していきます。
 そうして、パラナミオからケーキを受け取ったテトテ集落のお爺さんやお婆さんってば
「はぁ……夢じゃないかしらねぇ」
「パラナミオちゃんからケーキを手渡ししてもらえるとは」
「ワシの生涯に一片の悔いも……い、いや、やはりあと10年は……」
 と、まぁ、口々に色々な事を言われながら、皆さん笑顔でケーキを受け取ってくださいました。
 で、ケーキを受け取った皆様はですね、ほぼ漏れなくパラナミオの横に新たな列を作っていました。
 ……えぇ、『パラナミオちゃんに『あ~ん』ってしてもらいたい』方々の列です、はい。
 で、パラナミオはですね、ケーキを配り終えますと、嫌な顔ひとつしないですぐにもう一つの列の方へ移動していきまして、皆さんが手にされている買ったばかりのパルマ聖祭ケーキにフォークで分け分けし、その一部を突き刺しますと
「はい、お爺さん、あ~んです」
 そう言いながら、ケーキを手にしているお爺さんの口元に運んでいきました。
「う、うむ、あ~ん……むぐむぐ……うん、パラナミオちゃんにあ~ん、としてもらうと美味い物がさらに美味く感じるのぉ」
 といった具合で、皆さん大歓喜なわけです、はい。
 ただ、集落の皆さんは、このパラナミオあ~んにも手慣れておられまして、

 1人1口
 必要以上に長居しない

 こういったことを自主的に守ってくださっているものですから、スムーズに列が消化されていくわけです。
 ホントありがたいことこの上ないんですよね。

 テトテ集落の皆さんのご協力のおかげで、お渡し作業と、パラナミオによるボーナスタイムは日暮れまでにはすべて終了しました。
 そんな皆さんに見送られながら、僕とパラナミオはリンボアさんの自宅に併設されていますおもてなし商会テトテ集落店内の転移ドアをくぐって、ガタコンベへと戻って行きました。

 今回は時間的に余裕がなかったので転移ドアを使いましたけど、集落の皆さんは僕達が電気自動車おもてなし一号でやって来るのを出迎える事、これをことのほか楽しみにしてくださっていますので、次回はおもてなし一号で訪問しようと思っています。

 で、店に戻ると、パラナミオは笑顔で僕に向き直りました。
「パパ、パラナミオお役に立ちましたか?」
「あぁ、すっごく助かったよ。集落のみんなもすごく喜んでくれてたしね」
 僕がそう言うと、パラナミオはこのうえなく嬉しそうに微笑み、
「じゃあいつものご褒美ください」
 そう言って、目を閉じて唇を少し突き出してきました。
 なんかもう、このキッスのおねだりが当たり前になりつつあるパラナミオなんですよね……まったく、どこで覚えて来たのやら、こんな事を……なんて事を考えながらも、僕はいつものようにパラナミオの唇に自分の頬を軽く押し当てました。
 パラナミオは、そんな僕にニッコリ微笑むと
「パパ大好きです」
 そう言って僕に抱きついて来ました。
 僕は、そんなパラナミオを優しく抱きしめました。
 すると、そんな僕の横に、いつのまにかスアが歩み寄って来ていました。
 で、スアってば、
「……私も、頑張った、よ」
 そう言いながら、僕に向かって目を閉じて唇を突き出しています。
 そんなスアを、パラナミオが僕に抱きついたままジーと見つめています。

 ……間違いありません……こういうのを見て、パラナミオはどんどんおませになっているのです。

 で、パラナミオの時と同様にスアの唇に頬を押し当てた僕。
 スアってば、すっごい不服そうな表情をうかべていましたけど、
『続きは夜、ね』
 そう頭の中で語りかけると、スアってば真っ赤になりながら
「……うん、期待してる、ね」
 照れり照れりと体をクネクネくねらせていました。

 で、まぁ、この日の夜はいつも以上に……おっと、内容に関しては黙秘させていただきますよ、っと。

◇◇

 で、ラテスさんや、ヨーコさん、テマリコッタちゃんやクロガンスお爺さんといったオトの街の皆さんをはじめ、バイト時間延長までして手伝ってくださった魔王ビナス達にもしっかりお礼を言いまして、お礼にケーキもお渡ししておきました。

 そんな怒濤の1日が終わった翌日。

 迎えたパルマ聖祭当日です。
 ガタコンベの街中にある教会では、ヤルメキスとパラランサの結婚式が開催されます。
 教会には、すでに着飾っている来賓の皆様が多数押し寄せています。
 ヤルメキスの知人の大半はコンビニおもてなしの店員なのですが、パラランサのお婆さんであるオルモーリのおばちゃまのご友人達がすごい数集まっている感じです。
 びっくりしたのが、王都って呼ばれているこの世界の首都から多数のお客さんが来てたことですね。
 貴族院ってとこに属している貴族家からも多数の来賓が来ておられまして、
「オルモーリ様、この度はお孫様のご結婚、本当におめでとうございます」
 ってな具合で、皆様、オルモーリのおばちゃまに恭しく一礼しながら挨拶しておられるんですよね。

 ……えっと、オルモーリのおばちゃまって何者なんでしょうね?
 ……ただのスイーツ大好きお婆ちゃんじゃなかったんですかね?

 そんな事を考えながらも、まぁ僕としてはそんなことよりも、今はヤルメキスの父親代わりを務めることへの緊張感の方がマジやばい状態です。
 当然ですけど、結婚式に参加した経験もろくになく、父親代わりとしてバージンロードを花嫁と一緒に歩くなんてのも当然始めてな僕ですよ……緊張するなって方が無理ってもんです。

 で、そんな僕が控え室でウロウロしていると、ヤルメキスが部屋に入ってきました。
 すでに着付けを終えているヤルメキスは、膝上ミニスカで、両肩丸出し状態のウェディングドレスに身を包んでいます。

 あれ?こういうときって、僕が花嫁の控え室に行ってですね、
「ヤルメキス、幸せになるんだよ」
 とか言うのがパターンなんじゃないんでしたっけ?
 
「あ、あ、あ、あの……やはりですね、どうしても私の方からご挨拶をさせていただきたく思ったのでごじゃりまする」
 ヤルメキスはそう言うと
「あ、あ、あ、あの、タクラ店長様、や、や、や、ヤルメキスみたいなどうしようもない者をですね、今まで養ってくださって、お店で働かせてくださって、本当にありがとうごじゃりました。ヤルメキスは、きっと幸せになるでごじゃりまする……あ、お、お仕事はどうか続けさせてほしいでごじゃりまする」
 その場でいつものように土下座しようとしました。

 で、そこでスアが魔法を使ってですね、ヤルメキスを立ったままの状態で固定していきました。
 スア、グッジョブです。
 
 で、僕はヤルメキスに歩みよると、
「本当におめでとう、幸せになるんだよ」
 そう言って、土下座しようにも出来なくてあわあわしているヤルメキスを優しく抱きしめました。
 そんな僕とヤルメキスを、スアが優しく抱きしめます。
 そこに、パラナミオが加わり……リョータが加わり……来賓整理をしていたスアのアナザーボディ達まで駆けつけて来て、そこにでっかいタクラ家名物家族の輪が出来上がっていった次第です。

 ヤルメキスも、大事な家族ですからね。

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